私の釉薬



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●釉薬の調合に、なぜ灰を使うか、灰で仕上がりの色が違うのか?●

というご質問がありましたので、
少し説明させていただきます。
専門的な内容は、なるべく避けて概略を記述しますね。

まず、昔やきものには、釉薬は使われていませんでした。
世界最古と言われる日本の縄文式土器や、須恵器などを、ご想像ください。
焼成温度は、「縄文式土器」は野焼きの部類ですから、低温での焼成
(せいぜい800℃くらいでしょう・・・今の「素焼き」の温度に近いです)ですが、
「須恵器」になると1100℃以上で焼成されています。
いずれも、無釉で焼成されています。

現在、私たちが取り組んでいる「陶磁器」という場合、
「高火度焼成」と分類されている、ほとんどが、1200℃〜1300℃で焚かれているものです。

さて、その高火度焼成の中でも、釉薬を掛けないやきものがあります。

日本で有名なものでは、「信楽焼き」「伊賀焼き」「備前焼き」「越前焼き」など、
名前を聞いたことありませんか?
これらの中で、「信楽焼き」や「伊賀焼き」などは、
「自然釉」と呼ばれる、いわば天然の釉薬がかかった焼き物です。

「自然釉」というのは、
陶土の長石成分(ガラス質の骨材となります)と、窯焚きの薪の灰が化学反応を起こして、
厚く灰が被った部分に、ガラス質のビードロ色(翡翠のような透明感のある緑)を呈し
流れる部分が見られるもの、と考えて良いと思います。
ビードロは、松の薪の灰に含まれる微量の鉄分の発色と、
窯の中の焼成雰囲気が不完全燃焼の還元焼成により得られるものです
これが、いわば釉薬の調合の始まりだと私は、思っています。

昔は、今のように焼成燃料にガス・電気・灯油など利用していなかったのは、ご存知かと思います。
すべて木の薪で焼成されていました。

余談ですが、
李朝の陶工たちも、やきものの土を求め、窯を作り、周囲の木を燃料とし伐採し、窯焚きしていました。
そして、周囲の木が無くなってくると、次の窯場へと移動し、
新たに窯作りからはじめ、周囲の木を薪として利用し焼き物を焼成しました。

周囲の樹木を伐採し、薪で窯を焚いたのですから、当然、窯焚き後には、灰が残ります。
その灰を釉薬として使用したので、当時、伐採されて薪に利用された木の灰が釉薬となっています。
その場にある土を用い、その周囲の樹木で焚き、焚き終った後の灰を、その地の陶石や長石と合わせて、
釉薬を作ったのだと思います。
高麗青磁に用いられた灰は、やはり鉄分の多いブナの木だと言われていますが、
韓国でも日本でもブナ林が広がる景色をご覧になる機会がありますよね。

現在のように、北海道の陶芸家が、信楽の土を注文すれば、数日後には届くという状況は、
便利ではありますが、
昔のように、「その地の土を使い、その地の樹木を使って窯焚きをする」ということは、
今では、むしろ大変なことになってしまいました。
薪窯が迷惑がられ、薪で焚きたい、薪でないと出ない陶器を目指せば、
街からは追い出され、山中に篭らなければならない、という状況になってしまいました。

余談が長くなりました。(汗)。

このように、大地の土を焼いて器とする事から始まり、
土器のような低火度での焼成から、
人間は、高火度焼成の焼き締まったやきもの作りへと、
窯焚きの知識と技術を得、学習し、変遷させていったのです。

その過程の中で、先ほど述べました「自然釉」の発見があったわけです。
つまり、何日も何日も薪で焼成し、窯の温度・カロリーをあげる技術を工夫してきた際、
長い時間の窯焚きの間に、土に灰が被った所には、ガラス質の美しい流れ紋様が生まれ、
しかもガラス質の皮膜ができるわけですからガラスコーティングされた土と考えてみてください。

通常、土だけで焼成したものは、水分を吸収してしまい空気を通すので、水が漏れやすいのですが、
ガラスコーティングされた陶器は水を通さない器の可能性を呈示してくれたものでもあるわけです。
しかも、宝石のように美しいガラス質の釉流れの美しさに、魅せられる人は少なくはなかったことでしょう。

これが釉薬の原点である「自然釉」と呼ばれるものです。

つまり、長石(ガラスとなる)と、薪の(長石を熔解させる)ものを混合して、
「釉薬」が調合できることを発見したわけです。
釉薬の二種混合(長石+灰、または陶石+灰)の原理は、ここから来ています。

画像は、私の主宰する陶芸塾の塾生さんが、5種類の釉薬のテストピースをとるため
「長石」と「天然土灰」を計量したものです。
上の白い粉末が「長石」、下の灰色(笑)の粉末が「天然土灰」です。
画像、一番上の右は、長石単味ですので、志野釉になります。





次に、
灰により、仕上がりの色が違うのか?
という質問についてです。

「灰」といっても、木の種類が違えば、当然、灰にしたときの成分も違ってきます。
また、木のどの部分を焼いた灰か、
どの季節に伐採された樹木か、
によっても灰の成分は変わってきます。
そこで、天然の灰を使うと、釉薬の調合の際には、ひとつ困った問題が発生するのです。

「灰の成分」が違えば、釉薬の発色具合も違ってきてしまう。
という問題です。
つまり、天然の灰を利用すると、
調合した釉薬に安定性がない、という問題です。

そこで、「合成土灰」という化学物質を調合し、天然の灰と同じような成分にしたものが、
天然土灰よりも安価で手にはいるようになりました。
「合成土灰」の成分比を参考までに記述してみます。
これで、天然の灰も、おおよそどのような成分なのか、おわかりいただけると思います。

SiO2 17.51%
Al2O3 2.70%
CaO 35.84%
MgO 6.17%
K2O 0.15%
Na2O 0.02%

以上のように、灰の成分は、
ほとんどがカルシウム、そしてシリカ、マグネシウム、アルミナ、
カリウムとナトリウムが少量含まれたものであることが、おわかりになるかと思います。

天然の灰でも、松灰には微量の鉄分が含まれており、
昔から、窯焚きには松の薪が最高とされていますが(火持ちも良い)、
鉄分は、釉薬の基本となる呈色材(色をつける)であり

およそ2〜3%で、黄瀬戸などの黄色に発色し
   6〜7%では、あめ色(茶)から黒に発色し、
   10%以上含まれると、黒茶に発色します。

これは、酸化焼成といわれる焼成での発色の目安ですが、
不完全燃焼の還元焼成では、数%の鉄分が含まれていると青く発色します。
「青磁」と言われる青い焼き物の発色も、この微量の鉄分が含まれた釉薬が
還元焼成された時に得られるものです。

鉄分をあまり含まない堅木のイス灰などは、
逆に鉄分が少なく磁器の釉薬に使用されています。

私は、あえて天然土灰を使用し、
不安定ではあっても、天然土灰に含まれている不純物の効用を楽しんでいます。
(微量の鉄分も含む)。

このように、どの木の灰を使うか、
窯の焼成雰囲気が、どうだったか、
により、釉薬の発色は変化します。


また、釉薬の基礎釉の性質によっても発色は違ってきます。
天然土灰を基礎釉に用いた釉薬は、マグネシウムを含む基礎釉ですので、
マグネシウム基礎釉と言っても良いかと思います。

これを基本として、私の場合は、マットな釉薬にするには、カオリンなどを基礎に添加したり、
長石を変えたり、含鉄土石(鉄分を含むパーセンテージが違う)を変えたりして
釉薬を調合しています。

現在では、「合成土灰」と共に、
この天然灰の成分を「石灰」に置き換えて釉薬を調合している場合も多いです。

画像は、萩式登り窯での焼成です。
太い丸太のような薪を焚き口から投入しているところです。
この後、窯の横にある焚き口へと移動し、細い割り木の薪を投入していきます。



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