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誘起分極相互作用


Pageの趣旨>
前回、前々回より引き続き分子間力の起源について説明中です。電気的に中性である分子・原子でも電荷が存在する電場内では分極が生じる。今回の記述は誘起された双極子と電荷による相互作用についてです。

<目次>

  1. 分極による相互作用の分類
    1. 分極の状況による相互作用分類表
    2. 分極の現象
    3. 回転がある場合の分極
  2. 誘起分極由来の相互作用の各論
    1. 電荷−誘起双極子の相互作用
    2. 双極子−誘起双極子の相互作用
    3. 自由回転双極子−誘起双極子の相互作用

<本編>

1.分極による相互作用の分類

a. 分極の状況にによる相互作用分類表

誘起される双極子が原因で生じる分子間力について代表的な状況をまとめると以下の表のようになる。電荷をQ、電気双極子モーメントをμ、原子間または分子間の距離をr、とすれば各状況における相互作用エネルギーは次の表のようになる。

(表1) 分極による相互作用の代表例

相互作用の
種類
概念図 相互作用エネルギーU(r)
電荷
 |
無極性
          Q2α
U(r)=−――――― 
       2(4πε0)2r4
双極子
 |
無極性
    
       μ2α(1+3cos2θ)
U(r)=−――――――――
         2(4πε0)2r6
自由回転
双極子

無極性
    
         Q2・ μ2
U(r)=−―――――
        (4πε0)2r6

一般にDebyeエネルギー
と呼ばれる


表に挙げた分子の分極による相互作用について順次説明していく予定だが、その前にまず、分極という現象を説明してから各論に移りたい。

b. 分極の現象

分極率

分子や原子を電場の中においた場合、分子・原子の分極が誘導される。このときの分極が電場の強度に比例する(注)と定義できる。このとき分極率(Polarizability) をαは誘起双極子モーメントμとすれば、電場の強度Eとの関係は

   μ=αE        (1)    

注)αはμEとの方向が一致すれば単純な比例関係になりスカラー量になるが、一般にはx,y,z空間でそれぞれの方向での比例の仕方が異なる異方性という性質を持つ。

分極の例


ここで例題として核のまわりを電子が回っている場合をとりあげよう。普段電子は高速で核のまわりを回転していると考えられ双極子モーメントは打ち消し合い全体として原子は電気的に中性である。さて図のように、ここに電場Eがかかったとする。



上図のように電場Eがかかることにより原子核と電子の配置が変わる。これは分子でも事情は同じ。回転による双極子モーメントは速い回転速度なので相殺される。ところが電場をかけることにより生じた電場方向のモーメントは常に同じ方向を向いており消えない。この場合電場によって誘導(induced)された成分であるからモーメントをμindとして

μindel=α0E      (2

ここでは電場Eによる力とクーロン力がつりあっている。図では縦軸(Z軸)方向の力どうしがつりあう。したがってクーロン力をFind電場Eが引き起こす力Fextとすれば

ind=Fext      (3

クーロン力は

      e2
ind―――― sinθ
     4πε0 2 
     eel
  =―――― 
    4πε0 3 
     eμind
  =――――         (4
    4πε0 3

電場Eが引き起こす力Fext静電気的相互作用T7)′式よりF=qE

exteE     (5

4)(5)を(3)式の Find=Fextへ代入すれば      

 eμind
――――eE
 4πε03


μind=4πε0 3E         (6
     
2)式から μindel=α0E だから、これを(6)式に代入して

α0E=4πε0 3E

 α0=4πε0 3          7

が得られる。この(7)式は誘電率α0が距離の3乗つまり体積に比例すること示している。次章では双極子モーメントに回転が加わった場合の分極率を考えてみよう。

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c. 回転のある分子分極率

静電気的相互作用Tにて計算したとおり、双極子モーメントμ、外部電場との角度がθのときその相互作用エネルギーの計算は。

      −Qμcosθ
U(r,θ)―――――
       4πε02

     =−Eμcosθ        (8
         
    
ここで双極子モーメントに回転がある場合双極子モーメントについて回転に関する平均をとるためにエネルギーの平均をおこなう。

          Σ角度U(r,θ)eEμcosθ/ kT
<U(r,θ)>=――――――――――――――       
           Σ角度eEμcosθ/ kT

U(r,θ)>=<U(r,θ) eU(r,θ)/ kT角度平均

θに関しての角度平均の計算はθについての積分で求まり、極座標では[0, π]の範囲を積分することになる。従って、

               π
          U(r,θ)eEμcosθ/ kT dθ 
            0  
<U(r,θ)>=―――――――――――――――         (9
              π   
          ∫eEμcosθ/ kT dθ      
             0
(但し、このとき U(r,θ)=−Eμcosθ)

U(r,θ)i<<kTの場合、分子の積分内容はMacLaurin 展開ができるので

               π       U(r,θ)i2   1   U(r,θ)i3
          U(r,θ)――――――――――― −・・・ dθ      
           0         kT     2    k2T2
<U(r,θ)>=――――――――――――――――――――――――  (10
                    π   
              ∫eU(r,θ)/ kT dθ      
                   0

平均をかぎ括弧で表すことにして

U(r,θ)>=<U(r,θ)θ(1/kT) U(r,θ)2θ(1/2k2T2) U(r,θ)3θ−・・・ (11

を得る。さらにかぎ括弧内の角度依存の部分をいま f(θ) で表し角度θによる角度平均を<>θとあらわせば、

U(r,θ)>=U(r,θ)f(θ)>−(1/kT)U(r,θ)2f(θ)2θ(1/2k2T2)U(r,θ)3f(θ)3θ−・・・

となる、ここで、級数については寄与の大きい第2項までをとれば、

U(r,θ)>≒−Eμ<f(θ)θ(1/kT)(−Eμ)2f(θ)2θ   (12

ここで三角関数の空間平均値は付録Aのように計算でき(12)式に必要な数値は以下のとおり

f(θ)θ=<cosθ>θ0
                  1
f(θ)2θ=<cos2θ>θ――
                    3

これらを(12)式に代入すれば電荷−自由回転双極子の相互作用の平均ポテンシャル

           E2μ2
U(r,θ)>≒−――――         (13
           3kT

U(r,
θ)=−Eμcosθより、<U(r,θ)>=<−Eμcosθ>=−Eμ回転

したがって回転の寄与による双極子モーメントは

      μ2
μ回転―― E        (14
     3kT

この回転による寄与は誘導された元々の双極子モーメントμindel=α0E の式に対して配向分極率αorientを加えることなので、

                     μ2
μind=α0E+αorientE(α0――)E      (15
                   3kT

結局回転を含めた誘電率として

        μ2 
αind=α0――              (16
       3kT

Debye-Langevin の式を得る。

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. 分極による相互作用の各論

a. 電荷−誘起電荷の相互作用

次図のように電場E内で誘起される双極子モーメントは(2)式の電荷をq、距離をl で書き換えてμindel=α0E だから



μindql=α0E          (17

このとき電場Eが双極性分子に働く力は静電気的相互作用T7)′式よりF=qEだから双極子の端から端までの電場の差をΔEとして

F=qE(端1)−qE(端2

F=qΔE             18

いま端1から端2について微少領域と考えれば

 ΔE   d E
―――――           (19
  l    d r

ΔEを(18)式に代入して
     d E
F=ql――           
     d r
17)式より
       d E
F
=α0E――          (20
       d r

さて電場中の双極子のエネルギーを求めるために双極子を場所を r1 から r2 へ運んだと考える。仕事U=(距離)x(力)だから

U( r1r2)
   r2        E2
 F d r α0E dE    (21
  r1         E1 

  1       E2
―― α0[E2]
  2       E1

  1 
―― α0(E22E12)     (22
  2 

U( r1r2)はポテンシャルとしてU( r1)U(r2)のことであるから電場中の双極子のエネルギーを求めると

            1 
U( r1)U(r2)―― α0(E22E12)
            2 

したがって、r点における誘起された双極子のポテンシャルは

       1
U(r)
=−―― α0E2    (23
       2

となる。電荷Qから r 離れたところの電場E
    Q
E
――――
   4πε02
これを(23)式に代入して

        Q2α
U(r)=−―――――    (24
      2(4πε0)24

誘電率について回転の寄与も含めれば

        Q2         μ2
U(r)
=−――――― (α0―――)    (25
      2(4πε0)24     3kT

24)式と(25)式が電荷−誘起双極子の相互作用エネルギーである。

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b. 双極子−誘起双極子の相互作用

双極子±Qに由来する電場をEとし、いま下図のように双極子を持つ極性分子の中心から距離r隔てたP点を設定する。双極子モーメントは分子の中心を結ぶ線から角度θ傾いている。双極子の長さを l とすれば、相互作用のエネルギーはA点が持つ+QのクーロンエネルギーとB点がもつ−Qのクーロンエネルギーを足し合わせたものになる。

まず、電荷Qがつくる電場E
         Q
E(r,θ)――――
        4πε0R2   
だから、A点とB点の電荷がつくる電場は両者の寄与を足し合わせて、

E(r,θ)  Q
―――
4πε0
 1
―――
(PA)2
 1
―――
(PB)2
     (26

ここではP点における電場Eを計算したいのだが、これは双極子は一本の棒のように考えられるので電場は x-y平面上にて考えればよいことが分かる。点Pにおけるx方向の電場をいま Ex y方向の電場を Ey とする。

Ex(r,θ)  Q
―――
4πε0
cosθ′
―――
(PA)2
cosθ″
―――
(PB)2
     (27
Ey(r,θ)  Q
―――
4πε0
sinθ′
―――
(PA)2
sinθ″
―――
(PB)2
     (28

cosθ′, cosθ″, sinθ′, sinθ″の値は図から

cosθ′= (AK)
――
(PA)
  rcosθ−l/2
――――――
    (PA)
,   cosθ″= (BK)
――
(PB)  
  rcosθ+l/2
――――――
    (PB) 
 
sinθ′= (PK)
――
(PA)
  rsinθ
―――
  (PA)
,   sinθ″= (PK)
――
(PB)
  rsinθ
―――
  (PB) 
 

これらを(27)(28)式に代入すれば

Ex(r,θ)  Q
―――
4πε0
(rcosθ−l/2)
――――――
   (PA)3  
(rcosθ+l/2)
――――――
  (PB)3
 (29
Ey(r,θ)  Q 
―――
4πε0
(rsinθ)
――――
 (PA)3 
(rsinθ)
――――
 (PB)3
      (30


双極子の距離 l については r>> l 。近似によってOAOB

PArl/2cosθ   (31 , PBrl/2cosθ   (32

したがって

PA3(rl/2cosθ)3   , PB3rl/2cosθ  
   =r33r2(l/2)cosθ  (33      =r33r2(l/2)cosθ   (34

まずPA333)、PB334)を(29)式に代入してx成分の電場Exを計算すれば、

Ex(r,θ)  Q
――
4πε0
(rcosθ−l/2)   (rcosθ+l/2) 
―――――― − ――――――
  (PA)3        (PB)3
 
   Q 
――
4πε0
(rcosθ−l/2){r33r2(l/2)cosθ}(rcosθ+l/2){r33r2(l/2)cosθ}
――――――――――――――――――――――――――――――
     {r33r2(l/2)cosθ}{r33r2(l/2)cosθ} 
   Q 
――
4πε0
     (rcosθ)3r2lcosθ−l(r3)
――――――――――――――――――
{r33r2(l/2)cosθ}{r33r2(l/2)cosθ}
 
   Q
――
4πε0
  r3l(3cos2θ−1)
――――――――――
 r63r4(l/2)2cosθ2
 
            =  Ql
―――
4πε0
(3cos2θ−1)
――――――
   r3
 


 
        μ     
Ex(r,θ)――― (3cos2θ−1)                (35)
        4πε0r3 

次に、PA333)、PB334)を(30)式に代入して、y成分の電場Eyを計算する。

Ey(r,θ)  Q 
――
4πε0
(rsinθ)   (rsinθ) 
――― − ――― ]
(PA)3    (PB)3
 
   Q 
――
4πε0
(rsinθ){r33r2(l/2)cosθ}(rsinθ){r33r2(l/2)cosθ}
―――――――――――――――――――――――――
{r33r2(l/2)cosθ}{r33r2(l/2)cosθ} 
   Q 
――
4πε0
     (rsinθ)(3r2lcosθ)
――――――――――――――――――
{r33r2(l/2)cosθ}{r33r2(l/2)cosθ}
 
   Q 
――
4πε0
  r3l(3sinθ cosθ)
――――――――――
 r63r4(l/2)2cosθ2
 
           =  Ql
―――
4πε0
(3sinθcosθ)
――――――
   r3
 


         μ     
Ey(r,θ)――― (3sinθcosθ)         (36)
        4πε0r3 

Pの場所における電場はピタゴラスの定理を用いて、(35),(36)式から

Ex(r,θ)Ex2Ey21/2

        μ 
E(r,θ)――― (3cos2θ−1)29sin2θcos2θ1/2
       4πε0r3   


        μ 
E(r,θ)――― (3cos2θ+1)1/2     (37)
       4πε0r3

誘起双極子による相互作用のエネルギーは

        1
U(r,
θ)=−―― α0E2
        2

であり、これにに上記の式(37)を電場に代入して

        μ2α0(3cos2θ+1)
U(r,
θ)=−―――――――――    (38)
          2(4πε0)2r6

を得る。これが双極子−誘起双極子による相互作用エネルギーである。

c. 自由回転双極子−誘起双極子の相互作用

上にて説明してきた双極子−誘起双極子の相互作用が固定されない場合、たとえば温度が高い場合は双極子に自由回転が生じると考えられる。従って自由回転による配向エネルギーの計算が必要である。空間の角度平均は付録Aのように計算でき、 <cos2θ>θ1/3 を用いれば

U(r,θ)      μ2α0(3cos2θ+1)
=<−―――――――――θ 
       2(4πε0)2r6
(39)
            μ2α0(3cos2θ>θ1)
=−―――――――――――    
      2(4πε0)2r6  
 
           μ2α0(11)
=−――――――― 
    2(4πε0)2r6  
 
         μ2α0
=−―――――
    (4πε0)2r6
(40)


が得られる。これが自由回転双極子による誘起電場による相互作用エネルギーである。さらに2種類の異なった双極子間ではリニアーに加えて

U(r,θ)  μ12α01+μ22α02
――――――――
   (4πε0)2r6
    (41)

(40)(41)式で表せるエネルギーは一般にDebyeの相互作用エネルギーと呼ばれている。

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参照文献

Molecular Theory of Gases and LiquidsHischfelder J.O., Curtiss C.F., Bird R.B., Wiley, New York, 1954
『分子間力と表面力 第2版J.N.イスラエルアチヴィリ著、近藤 保・大島広行 訳、朝倉書店(1996年)
『液体の構造と性質』 戸田盛和・松田博嗣・樋渡保秋・和達三樹 著、岩波書店(1976年)
『分子科学概論 理工学基礎講座12』笹田義夫 著、朝倉書店(1977年)
物理は自由だ2 静電磁場の物理』 江沢 洋 著、日本評論社(2004年)
詳解 電磁気学演習』 後藤憲一・山崎修一郎 共編、共立出版(1970年)

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付録


A. 三角関数空間平均値の計算

f(θ)θ=<cosθ>θ0
                  1
f(θ)2θ=<cos2θ>θ=――
                    3

<まず立体角とは>

いま2次元で考えた場合円を描く全角度は2πである。これは円周2πrについてr1した場合に等しい。
この角度を立体へ拡張する。いま球の面積は面積素片 r 2sinθdθ・dφを以下のように積分することで求まり4πr2である。

球の面積

    2π  π
∫∫ r 2sinθdθ・dφ  
   0  0  

             π    2π
r 2[cosθ]dφ  
            0  0
4πr2

ここで立体角はr1した場合に等しい。したがって4π。面積をr2でわればを立体角度Ωになる。

dΩ=δS÷r2     (1)


dΩ=sinθdθdφ      (2)

いま図のようにφは仰角θと方位角φに対応する。


いま図のようにdΩ=sinθdθdφは仰角θと方位角φに対応する立体角度で積分を全空間に渡って行なえば、

          π         2π
dΩ=sinθdθ dφ   (3
        0       0 
          π      2π
=[−cosθ]  [φ]
         0     0
= 4π              (4
 
の全空間の立体角度を得る。さてcosθの立体角度は面積素片が図のように r 2cosθsinθdθ・dφとなるのでこれを積分して積分値にr1を代入して求める。

cosθの立体角度
     π           2π
cosθsinθdθ dφ   (5
   0         0
 
ここで xcosθとおけば dx/dθ=−sinθ

             −1    2π
dΩ′=−x dx dφ   (6
          +1    0 
        −1    2π
=−[x2/2 [φ]
       1   0
0                  (7

同様にして
cos2θの立体角は

           π             2π
dΩ″=cosθ2sinθdθ dφ   (8
        0           0 

ここで xcosθとおけば dx/dθ=−sinθ

            −1     2π
dΩ″=−x2 dx dφ   (9
         +1     0 
        −1    2π
=−[x3/3 [φ]
       1   0
   4
=――― π             (10)
   3

以上
(4)(7)(10)式からcosθ、cos2θの三角関数の空間平均値は以下のようにして計算できる。

             1    π             2π
cos2θ>θ=――― cos2θsinθdθ dφ      (11
           4π   0           0
   1
=―――                             (12)
   3

            1    π             2π
cosθ>θ=――― cosθsinθdθ dφ      (13)
           4π   0          0
0                               (14)

よって、<cosθ>θ0  <cos2θ>θ1/3 が得られた。
 

                                      [証明終了]

 

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