|
中村酒店は楽しい。そこに集う客がみんな精気に溢れているからだと思う。疲れてグチをこぼしたり、ひとりでクラく飲んだりしている
者はいない。みんなものすごいテンションで、ひたすら飲みまくっている。私はその雰囲気が好きで中村酒店に通っている。
この雰囲気は、最近の日本がなくしてしまった「活力」なのだと思う。だから私は活力に溢れる中村酒店で、人の醸し出すエネルギー
を感じていたいのだ。
さて、中村酒店にはどうしてこんなにすごいエネルギーが存在するのだろう?
これは中村京子に負うところが大きいと思う。確かに個性豊かな客がひっきりなしにやってくる。しかし、それだけでいつも同じ雰囲
気を維持できるはずがない。
「なぜ客同士、互いに素のような関係にならないのだろう?」
「なぜ無礼な客が大暴れなんて局面に出くわさないのだろう?」
「なぜひとりでクラく飲んでいるヤツがいないのだろう?」
こういう状態にならないように、中村がいろいろなコントロールをしていたことが思い出された。いや、コントロールというよりも、ゆる
いルールを彼女自身が遵守しているのだと思う。
やさしそうなトローンとした眼とゆるいしゃべり口で、誰もがここにいてもいいというムードを作り上げる。そして、客全員に気を配っ
て、楽しい雰囲気に持っていく。さらに仲間同士の武勇伝を紹介することで、仲間となることへの憧憬も作り上げる。
「バイアグラ飲んで西川口にツアーに言ってるよー」
「歌広でオールで歌いっぱなしで、最後は寝落ち」
「キサナでお立ち台にのっちゃったー」
こういう話を聞けば、
「いいなー。おいらも仲間に入りたいなー。よーし、みんなと話してみよう」
という具合になる。こうして客同士はすぐ仲良くなり、みんながひとつの話で盛り上がるようになるのだ。
しかしルールに従わない者は容赦なく中村から迫害される。
「○○さーん、今日はもう帰った方がいいよー」
場の雰囲気を壊そうとしている者やあまり気乗りのしない客には、やさしい「帰れコール」が贈られる。でも腹は立たない。やさしい保
母さんのように言い含められるため、男たちは"そっかー"てなカンジでそそくさと帰っていく。
このアメとムチが、中村酒店のトーン&マナーを醸成しているのだと思う。
本人はきっと「ゼッタイ違う」と言うと思うのだが、中村という人は、ものすごく神経が細やかで、人の機微に精通した人なのだと思う。
だから中村京子という暗黙のルールが存在し、それを客たちも喜んで受け入れられるのだ。
こうして作り上げられた空間は、陳腐な表現だが、都会のオアシスである。私にとっては、自分のリアルから解放されるサンクチュア
リと言っても過言ではない。こういう空間が、殺伐とする21世紀の日本に現存することは奇跡なのかも知れない。
たとえ奇跡だとしても、永続して欲しい。この空間こそが、日本人がなくしてしまった「何か」を思い出せる場所だと思うから。また、私
たち大人が、若者に伝承できる貴重な空間だとも思うから。
|