2004学園祭投稿SSS 

〜二学年中心ショート・ショート・ストーリーズ〜

 

場  所 題  名 主 な 登 場 人 物 ( 敬 称 略 )
屋上

ボルトとナット

藤村朝都・佐々木茉莉・斉藤凪・樫原結佳・日渡秋葉・華城真響
薔薇の館 偏と旁 朱宮蝶・日渡秋葉・望月朝日・華城真響
教室(二年生) リリアンの三大怪獣 朱宮蝶・日渡秋葉・華城真響
教室(一年生)

『甘』の効果

瑞希小桃・羽月ひめ・原嶋悠里・石川麻奈

教室(三年生)

暗闇でどっきり大作戦

井石真帆・真砂ゆう・宮内悠奈

講堂裏

怪獣双進撃

朱宮蝶・日渡秋葉・望月朝日・水島亜由美・華城真響
図書館

大切なもの

日渡秋葉・如月尚香・山本和・影山鞠名・樫原結佳
マリア像前

ごきげんよう?

宇都宮伊万里・鳴瀬こはる・九条零波・華城真響
音楽室

会議は踊る

庵原月子・野際青湖・三田村真生・七瀬涙
銀杏並木

銀杏の災難と友情

鳴瀬こはる・岡崎すばる・中丸美里
お聖堂 マリア様がみてるから 宝条響・進藤璃都・浅瀬綺羅
温室

天使が舞い降りる場所

前田淑恵・音羽心・月沢菊子
講堂

決戦は雨の日に

二ノ宮みさき・朱宮蝶

ミルクホール

人生最良の日

鶴久灯里子・冴島霧香・横大路桜子・他
麺食堂

紅い疑惑

冴島霧香・横大路桜子・山本和・如月尚香・朱宮蝶・鶴久灯里子

校門

それぞれのかたち

斉藤凪・華城真響・日渡秋葉・黛あんぬ

中庭

やがて訪れる別れに

藍月六花・鹿瀬佐里

グランド

リトライ

紫月光・庵原月子・岡本クルミ・華城真響

特別教室

ささやかな願い

日渡秋葉・乾かなで・岡本クルミ・華城真響

フィクション・ノンフィクション混ざっております。
性格などそうじゃないわ、という部分もあるかと思いますが、あくまでも真響内いめーじで構築されております。
また、登場人物の中にはご出演の了解を得ていない方も沢山いらっしゃいます。
学園祭に免じてお許しくだされば幸いです…
どうしても駄目な場合はわたくしまで。

 

 

 

 

ボルトとナット


「ちょっと聞いて頂戴!」
リリアン女学園高等部。
屋上で二年生たちが歓談しているところに同じく二年生の朝都が飛び出して来た。
「ごきげんよう、朝都」
歓談中の生徒達は笑顔で朝都を振り返り………噴き出した。
「どうしたの?その髪型?」
茉莉が訊ねると朝都は半べそをかきながら、
「どーもこーもないわ。モスラが私の頭、縦ロールにしてくれやがったのよ!」
「朝都、言葉が悪いですね……」
と凪。
「朝都、ずいぶんえきさいとしてるのー」
と結佳。
「トサカに来たのよね。ロサ・アサトサーカだし」
秋葉の言葉にどっと湧く。
「こんな時に言葉なんか構ってられないわっ!しかも写真撮りまくってくれやがったのよっ!」
朝都の叫びにこっそり携帯を取り出そうとしていた全員が引っ込めた。
もちろん、朝都に同情したわけではない。
自分が撮るまでもないか…と思ったのである。
「縦ロールなんてお嬢様の必須アイテムよ、いいじゃないの」
脇から真響が無責任に口を出す。
「何を言ってるの!まゆらやモスラじゃあるまいし、私にはそんなの似合わないわ! 」
「蝶と一緒にしないで頂戴」
真響が憮然とする。
「そんなに嫌ですか、朝都?」
凪が考え深そうに訊ねる。
「ええ!私のイメージはマリー=アントワネットではなく、男装の麗人オスカルなのよ!」
「ふむ……」
凪がちょっと考えてからどこからか工具を取り出すのを、居合わせた二年生はもちろん
止めることなく見守っていた。
凪が無表情で朝都に向き直る。
その手にはボルトとナット。
「な、何するの、なぎちゃんっ!?」
「ちょっと大人しくしててくださいね。すぐ終わりますから」
ギコギコゴリゴリキュッキュッギューーーーーッ。
「さあ、できましたよ」
朝都の新しい髪型に全員必死に笑いを堪える。
「朝都が………本物の
アサトサーカになったわ!」
今度は躊躇いなく一斉に取り出される携帯。
凪がどこからか出した鏡を見て一人固まっている朝都。
「うわあああああん!オスカルって言ったのにー!男装の麗人って言ったのにー!!
どうして
モヒカンなのーーーっ!?」
「オスカルの髪型が良く判らなかったので、朝都に一番似合う髪型にしてみました」
きらりと眼鏡を光らせて凪。
「似合う似合う」
携帯で一斉に写真を撮りながら請け合う同学年の友人達。
結佳だけ朝都と友人たちの間でおろおろしている。
「うわ
あああああん!みんな、嫌いだーーーっ!
朝都が扉に向かって駆け出す。
「あ、朝都、そのまま放っておいても爆発はしないので、安心してくださいね」
カシャカシャッ、ピロロンという音と共に、凪の冷静な言葉が朝都を追いかけたのだった。

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偏(へん)と旁(つくり)


薔薇の館で。
二年生のメンバーのお茶会もどきの席。
今日のお茶のサカナは蝶。
『蝶は鱗粉をまき散らしているかも』『あれで案外弄られキャラ』という話になったところに
本人がやって来た。
「そういえば、蝶はサナギからモスラになったのよね」
と真響。
「会った早々失礼ね。蛾じゃないわ!わたくしは華麗な蝶!蝶なのよ!」
「あら。似たようなものよ、同じ偏だし」
「偏が同じだからって同一視しないでちょうだい!」
「しかも虫偏だし」
「どうしてそこを強調するのっ!?真響、あなた、わたくしに喧嘩売っていて?」
「嫌だわ、愛よ、愛」
「そんな偏った愛は要らないわ!」
ぜーぜー。
「叫んだら喉が渇いたわ…お茶、淹れてくるわ」
蝶が流しに向かうと、真響や秋葉も
「あ、こっちもお代わり作ろうか」
と立ち上がる。
「わたくしがするから良いわ、座ってて」
と蝶。
「どうしたの?随分大人しくなったんじゃない?」
珍しく黙々とお茶を淹れて配っている蝶に、真響が不思議そうに訊ねた。
「わたくしはいつもお淑やかでおとなしいわよ」
胸を張る蝶。
「蝶が言うとお淑やかが泣くわ」
「失礼ね。わたくしだって疲れる時も物思いに耽りたい時もあるのよ」
「今がその時なの?」
ちょっと心配そうに蝶の顔を覗き込むのは秋葉。
「そういう時もあるという話よ。わたくしは元来お淑やかで大人しい……」
「はいはい。人一倍賑やかでお祭り騒ぎが大好きなのよね」
「…くっ」
その通りだったので、蝶が黙る。
「わぁ、珍しい」
その向こうから朝日。
「蝶が喋らないと静かよね」
「蝶は喋るためにいるのよね。ほら、『蝶』と『喋』は旁が同じだし」
ともっともらしく真響。
「さっきの偏もそうだけど、旁も人間性の形成には関係ないわ!」
「秋葉の『葉』と『蝶』も旁が同じなのよね」
秋葉が嬉しそうに報告する。
「道理でどっちも濃いはずね」
周りの異口同音の言葉に、薔薇の館で今世紀最大の噴火が起こったかどうか…は定か
ではない。

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 リリアンの三大怪獣


熱波のゴジラこと日渡秋葉。
爆炎のキングキドラこと華城真響。
そして
紅蓮のモスラこと朱宮蝶。

「どうして皆、怪獣扱いなの………?」
「最初は蝶のモスラから始まったのよね。いい迷惑だわ」
「何を言ってるの。普通の常識人なら間違ってもそうは呼ばれないわ」
「じゃ、3人とも普通の常識人じゃないのね・・・・」
「(自分以外を見回し)ないわね」
「(言い切った一人に鏡を見せる)」
「わたくしなんて頭が3つもあるのよ!」
「8時間交替だと24時間働けるじゃない」
「そう来たか」
「そこまでして働く理由がないわ」
「そうじゃなくて」
「でも、三大怪獣と三大バカだったらまだ怪獣の方がマシじゃない?」
「そういう悲しい引き合いを出さないでちょうだい」
「そうよ!レベルが低すぎるわ」
「もっとこう…レベルの高いお嬢様っぽいネーミングはないのかしら?」
「「無理」」
「即答しなくてもいいじゃない…しかも、全部暑苦しそうなネーミングなのよね…」
「そこは『暑苦しい』じゃなくて『熱く燃えている』と言わないと」
「………本当は
『濃い』って言いたかったんでしょう?」
「「……………」」
もはやその空間には誰も近づけなかった。

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『甘』の効果


一年生の教室で数人がお喋りの真っ最中。
時期が時期なので話題はインフルエンザに………
「小桃ちゃん、今年は風邪引いてない?」
「コモはこの間、インフルエンザの予防接種したですよ。だからこの冬は元気に乗り切るです」
「予防接種!」
居合わせた生徒達は顔を見合わせる。
「お注射、いたくなぁい?」
ひめがおそるおそる訊ねる。
「痛くなかったです。きっとせんせいによるですよ」
「先生?お医者さん?」
悠里の言葉に、小桃は頷く。
「元気のいい若いせんせいだと痛い気がするです」
なるほど、と皆頷く。
「わかるの・・・おじいちゃんせんせいにうってもらうとちくんでおわるのー」
にこにことひめ。
「お年寄りのベテランの先生って事ね」
「コモのかかったせんせいはとしとったせんせいだったから良かったですよー」
「注射が痛いのは痛いと思うからじゃないのかなあ」
麻奈が呟くと、
「確かに気の持ちようってあるけど、痛いものは痛いのよ」
悠里が主張する。
麻奈はちょっと考えて、
「うん。それはそうかも。でも、私は予防接種程度ならあまり痛いって思ったことないよ」
「麻奈ちゃん、つよぃつよぃさん・・・・」
ひめが驚きの目を瞠る。
「痛くないおいしゃさんにかかって痛くないおまじないしたらいいかもしれないですよ」
にはっと小桃。
「それならひめもてのひらに『甘』ってかきかきしてがんばるの〜」
ひめがホッとしたようににこにこ笑う。
「ひめちゃん、掌に書くのは『甘』じゃなくて『人』じゃない?」
「『甘』・・・ちがう?でも、ひめのばあいは『甘』のほうがこうか、ありそうなのー」
うっとりとひめ。
「なんだかひめちゃんの場合は『大甘』がもっとも効果ありそうね」
「おおあまさん・・・」
うっとりうっとり。
居合わせた全員が深く頷いたのだった。

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暗闇でどっきり大作戦


11月の半ばともなると、擦れ違う友人同士、姉妹同士、話題に必ずと言って良いほど上るのは学園祭の話。
「私のクラスはねえ、講堂裏にテントを張って和風の甘味処をするんだよ。」
三年生のとある教室前で立ち話をしているのは三年生の井石真帆と真砂ゆう。
通りかかった同じく三年生の宮内悠奈も会話に混じる。
「ゆうさんのところは?」
真帆がゆうに訊ねる。
「松組は新撰組風の喫茶店ね。かっこよさそうね。藤組はお化け屋敷よ。悠奈さんも一緒ね」
「うん」
悠奈が頷き。
「お化け屋敷!!」
真帆は絶句する。
「ぜひ来てちょうだいね。サービスするから」
「こう見えても怖いのはわりと苦手なのですよ。でも、サービス?お化け屋敷で?」
ゆうの言葉に真帆は興味を持った様子である。
「何事もなく通り過ぎる権とかがいいなあ、サービスじゃなくて」
ゆうは首を傾げる。
「ドロップアウトする権利とかですか?私が担当ならそれでもいいんですけど・・・」
「ドロップアウトすると何か罠が待っているとか?」
「ないわよ」
真帆の危惧にゆうが笑う。
「でも、リタイアしたら罰ゲームとかも楽しそうね」
「悲鳴が凄かったとか悲鳴の回数でとかの賞もいいよね」
悠奈もゆうの言葉にのって笑う。
「私は罰ゲームでもいいからリタイアするかも〜」
真帆の言葉にゆうは頷いて、
「いつでも言ってちょうだい」
「わかった〜。でも、できるだけ無理して頑張ってみるね〜」
「そういえば真響さんも無理して脅かすと思うから、真帆さんの健闘も祈るわ」
「わかった〜。じゃあ、真響さんを脅かそう」
「ミイラ取りをミイラにするのね。それは見てみたいかも」
真帆の言葉にくすくす笑うゆう。
「うん、真響さんは脅かし甲斐ありそうです」
本気か冗談かわくわくする真帆。
「学園祭の楽しみが増えましたね。それに真響さんは最後までお化け屋敷案に断固反対してましたから、期待大です」
「そういえばそうだったね」
ゆうと悠奈が思い出し笑いする。
「やった!! 無闇に脅かすのなら案外上手にできそうなのです。いきなり真響さんに向かって突進するとか…」
「突進!?突進だと真響さんが怒りそうですが、見てみたいです」
「うん、ぱんちで返り討ちされたりしてね〜」
「その後、お化け屋敷から、真帆さんVS真響さんのデスマッチが始まるのね」
「う〜ん、真剣勝負だと、ぜったい真響さんが強そうだなあ…」
本気なのか冗談なのか全く判らないままに真帆が腕を組み思案する。
「確かに…頑張ってくださいね」
「期待してるよ」
にこにことゆうと悠奈。
「KOされないように頑張る〜」
真帆の言葉に
「やってみないとどっちが勝つか判らないじゃない」
悠奈が考え考え言う。
「なるほど、勝負は時の運。とすると、私にも勝機はあるわけだ。武器は禁止だよね」
「武器は……会場設営のための椅子があるくらいで………」
「椅子!場外乱闘の基本ですね!」
真帆が叫ぶ。
「うわ。乱闘するの!?」
悠奈が続いて叫ぶ。
「しー」
ゆうの制止にはっと口を噤む二人。
「真帆さん、真帆さん、真響さんに何かあったら凪さんが黙ってないんじゃない?」
悠奈が小声で注意する。
「う〜ん、二人相手だとますます不利です。穏当に穏当に『話せばわかる』のいきおいで行きたいものです」
真帆が嘯く。
「そうね。平和的解決が一番だわ」
ゆうもノリノリで答える。
「うんうん、そして握手と同時に後頭部にチョップを…」
「そして・・・真響さんが正当防衛という名の報復措置を決行。二者の間での紛争へ・・・」
「敵を作ってしまうわけですね」
がっくりと肩を落とす真帆。
「じゃ、やっぱり暗闇で脅して勝つ方がいいのでは?」
悠奈の意見が採用されるのかどうか、学園祭の楽しみが増えたと密かに喜ぶゆうだった………

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怪獣双進撃


「いつでもかかってらっしゃい!」
「望むところよ!」

「わ…今日もリリアンの怪獣同士、火を噴き合ってる!」
推定怪獣を遠巻きにして望月朝日。
(1) さまと(2)  さま、火を噴くんですかっ!?」
「さすがなお二方ですね」
頷く一年生の後輩たち。
「ツッコミ処はそこなのね…いえ、比喩的な表現よ」
と日渡秋葉。
「…そ、そうですよね…それで、どっちが強いのでしょう?」
「あの二人に関してはどっちがどっちとは言えないと思うのー」
にこにこと水島亜由美。
「実力伯仲なのですね!」
「似てるしね。違うのは(3)蛾のお化けはツッコミ専なのに対して、
(4)三首竜は状況に応じてボケもツッコミもするところ、頭3つは伊達じゃない…
くらいかしら?」
「蛾のお化けと三首竜…うまいこと、言いますね。イメージにぴったりです」
「そうでしょう?(えっへん)我ながらぴったりだと思ったのよね」
「さて、そこで良い子の皆さんに問題です」
「ええっ!?」

ー問題ー
1、下線部(1)と(2)に該当する人名をフルネーム・漢字で書きなさい。
2、下線部(3)と(4)に相当する怪獣名を答えなさい。


「も、問題なのですか…」
「1問25点で100点満点ね」
「今までの人生の中でこれほど満点を取りたくないと思った問題はありません…」
「せ、正解したら殺される、とかそういうのはなしですよね……」
「あるかも。でも、殺しはしないと思うわ。せいぜい半殺しくらいで」
にこにこと朝日。
「でも、もしかしたら期末テストあたりに出るかもしれないわよ」
にこにこと秋葉。
肯定はしないが否定もせずににこにこしている亜由美。
「は、半殺し!」「期末テスト!」
半泣きの下級生。
「「秋葉、朝日、亜由美、一年生に何を吹き込んでいるのよ───っ!」」
怪獣二匹(?)が振り向いてきしゃーっと叫んだ。

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大切なもの


「ごきげんよう。何しているの?」
秋葉が図書館の書架の前で声を掛けたのは如月尚香。
「あ、秋葉。ごきげんよう」
真剣な表情で書架と向き合っていた尚香が振り向く。
「何か探しもの?」
「うん、えっとね、美味しい紅茶の淹れ方の本を」
「へぇ。尚香、そういうの、興味あるの?」
うーん…と尚香が考える素振り。
「興味というか、つぼみなのに、あまりできないのもどうかなって思って」
「尚香、紅茶淹れるの苦手なの?」
「普通にはできるけれど、何だか皆さん、余りにも上手だし……」
「リリアンだしねえ」
「声が聞こえると思ったら、秋葉と尚香。ごきげんよう」
にこっと書架の向こうから顔を出すのは山本和。
口々にごきげんようを言い合い、
「和は何の本を探してたの?」
秋葉が手元を覗き込むと、和はお菓子作りの本を差し出す。
「これよ。レパートリーを広げようと思って。薔薇の館はいつもお菓子でいっぱいの
イメージだし、薔薇さま方のためにもできることしたいから」
「偉いねえ、和」
感嘆したように尚香。
「尚香こそ、さっき聞こえてたわよ。紅茶の淹れ方勉強するんでしょう?」
「二人で頑張るのね。頼もしいわ」
秋葉がにこにこと微笑み、尚香と和が恥ずかしそうに微笑みあった。
「ごきげんよう、3人とも。本捜しですか?」
「ごきげんよう、尚香さん、和さん、秋葉」
3人の後ろから影山鞠名と樫原結佳。
ひとしきり挨拶が交わされる。
「そうか、鞠名と結佳さんは図書委員だから、今は委員会の仕事中?」
「ええ。そうです」
鞠名が頷く。
「本をお探しならお手伝いさせていただきますー」
控えめに結佳。
尚香と和が顔を見合わせ頷きあう。
「「お願い!」」
鞠名と結佳が書架を回って本を選び出して来る。
「こんな感じでしょうか?」
鞠名の言葉に結佳も頷く。
「ありがとう、鞠名、結佳」
「ありがとう」
口々にお礼を言う和と尚香。
「貸出期間は2週間です。ふたりとも、しっかり勉強してくださいね」
鞠名の言葉に結佳が真剣な表情でふたりを観て、
「知識も大切だけど、お菓子を作るのもお茶を淹れるのも、何よりも大切なのは心なのー。
それを忘れないでね」
和と尚香が神妙に頷くと、脇から秋葉が
「でも、知識や技術のない心だけというのも言い訳だから、それなりには知識も身に
つけないとねー」
にこにこにこ。
「確かにそうですね」
鞠名が頷くと、結佳もちょっと考えてから頷く。
「む、難しいね」
尚香がそっと和に囁いた。
こくこくと頷く和。
「でも、努力すればしただけ上手になるから。お菓子作りもお茶淹れも」
「そこに心が篭もれば言うこと無し。最強ですね」
結佳と鞠名の言葉を神妙に聞いている尚香と和の背中を秋葉がぽんっと叩く。
「大丈夫よ。大変だとか難しいって尻込みしていないで前に進むことが肝腎だから」
「大切なことがたくさんあるのー」
にこにこと結佳。
「そだね、ありがとう、みんな」
それぞれに本を手に嬉しそうな尚香と和。
「二人が極めてくれれば館もますます居心地良くなるわ。だから頑張って」
それじゃあね、ごきげんようと手を振って、秋葉が出て行く。
見送る4人。
「なんというか、秋葉らしいですね」
鞠名の言葉に頷く結佳。
「…頑張ろうね」
「…うん」
秋葉のプレッシャーなのか励ましなのかわからない最後の台詞に、尚香と和は頷きあうのだった。

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ごきげんよう?


「ごきげんよう?皆さん」
マリア像前に居た生徒達に声が掛かる。
「ごきげんよう、伊万里さま」
「ごきげんよう」
異口同音にご挨拶を返す生徒達。
「伊万里さま、どうしてご挨拶が疑問型ですの?」
二年生の華城真響が伊万里を訝しげに見上げた。
居合わせた同じく二年生の鳴瀬こはるも九条零波もうんうんと頷いている。
伊万里は3人を見回すとにこにこと微笑んだ。
「それはね。皆さんのごきげんが良いかどうか、私にはわからないからですよ」
「はい?」
二年生ずはきょとんと顔を見合わせる。
「御機嫌よう、って御機嫌よろしいですか?ということでしょ?会ったばかりでは御機嫌がよろしいのか、
よろしくないのかわからないのです」
にこにこと伊万里が説明すると、なるほどと二年生ずは頷いた。
「そういうことですのね。では、わたくし、機嫌がよろしいですわ。伊万里さまは御機嫌よう?」
真響が早速言い出した。
「うちも御機嫌良いですー。伊万里さまは御機嫌よう?」
「私も御機嫌ですわ。伊万里さまは御機嫌よう?」
皆に返されて、伊万里は嬉しそうに相好を崩した。
「はい、御機嫌ですよ、お陰さまで」
なんとなく奇妙な連帯感が4人を繋いでいた。

 

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会議は踊る


「では、学園祭のだしものを決めたいと思います」
音楽室で、きりりと居合わせた全員を見回したのは、合唱部副部長の野際青湖。
見た目一番幼そうな顔立ちなのに、実は最上級生だったりする。
しーんとなる音楽室。
文化部である合唱部にとって、学園祭は一年間のメインイベントと言える。
いわば運動部のインターハイ。
というのはいささかオーバーではあるが、生徒達は皆真剣な眼差しをしていた。
「いくつか案はあがっています」
手元の資料を確認しながら青湖が声を張り上げる。
「去年と同じように二部構成で、一部は聖歌を歌いたいと思います。問題の二部の案ですが、
キューティーハニー、プリキュア、ミュージカルもの・・・・」
一斉にざわめく室内。
「キューティハニーって、あの格好をしますの?」
「きゃ。はしたないですわ」
「プリキュアって何でしょう?」
「私も存じませんわ」
口々に言いながら不安そうに顔を見合わせる部員達。
「青湖さま」
中からすっと手が上がる。
「はい、涙さん」
一年生の七瀬涙は、日本人形のような面差しの少女。
「青湖さま、私は去年を知らないのですけれど、去年の学園祭は何をしたのでしょうか?」
青湖の傍にいた同じく三年生の庵原月子が微かに動揺した。
皆、それぞれに話すのを止めて注目する。
「去年は………」
月子の蚊の鳴くような声に、青湖が頷き、
「去年の二部はミニモニ。でしたっ!」
声高らかに宣言。
ざわざわざわ。
「ええ!ミニモニ。ってあのモー娘。の?」
「一部は真面目にまともに聖歌歌うので、二部は弾けますのね!」
「でも、でも、キューティーハニーは弾け過ぎでは?」
「プリキュアなら良いかも……私、白やりたい」
ざわめきは一層激しくなった。
「それで、ですね」
青湖の張り上げた声に、シーンとなる室内。
「ミュージカルの方は案として『オペラ座の怪人』とか、『CATS』とか、『サウンドオブミュージック』とか
『ウエストサイドストーリー』とかいろいろあがっているのですが、如何でしょうか?」
多少ホッとした空気が流れる。
「ミュージカルならばまだ……」
「驚いたわ。考えてみれば青湖さまや月子さまとか、いわば
リリアンの良心が揃っているのに、
そんなに弾けすぎるはず、ないですものね」
ざわざわ……今度は少し穏やかなざわめきだった。
「それでですね。三年生でいろいろと話し合いをしたのですけれど・・『CATS』を推すことになりました。
後は皆さんの賛同が得られればそれでいきたいと思います」
「あの、青湖さま…」
遠慮がちに手が上がる。
「はい、真生さん」
ボブカットの細身の真生は、周りの注目を浴びて、子猫のような顔に緊張を浮かべて、
「『CATS』といえば、あの素敵に濃いお化粧が印象的ですが、まさかあれを…?」
月子と青湖は顔を見合わせて微笑みあう。
「いいえ。それは無理ですので、衣装だけ、それらしくしようと思っています」
「『CATS』の登場人物…ええと、登場猫になぞらえて、例えば黒猫ならば黒のTシャツとか、縞々猫ならば
黒白のストライプの服とか、個人的に用意できる範囲で揃えることが出来ればと思っています」
知的な美人と学園内で定評のある月子の言葉は、根が真面目だけに説得力がある。
皆、ふむふむと頷き、流れは『CATS』に向いていた。
「では……『CATS』で良いと思う方、挙手願います」
青湖の言葉にほぼ全員の手が挙がる。
「では決めましょう。2004年度学園祭、合唱部の出し物は『CATS』で決まりです」
ぱちぱち。
拍手が起きる。
決まってほっとした空気の中で、にこにこ邪気のない笑顔で青湖が一言。
「あ、言い忘れましたが、猫ですからもちろん
猫耳、猫尻尾必須です」
またしても室内が騒然となったのは言うまでもない。

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銀杏の災難と友情


「空は青く高く風は気持ちよく…これで妹が傍にいてくれたら言うことあらへんけどなあ」
銀杏並木。
秋の空を見上げて二年生の鳴瀬こはるは大きく伸びをした。
「あ、こはるさん、危ない!」
いきなり声が聞こえてこはるは固まった。
「銀杏踏むところだったわよ」
同じく二年生の岡崎すばるだった。
「すばるさん、ごきげんよろしゅう。おかげさんで銀杏踏まずにすんだわ。ありがと」
「どういたしまして。なんて本当は私もさっき踏みそうになって、美里さんに注意された
ところなのよ」
「なんだ」
すばるの指差す方に美里が居て、道路に屈み込んでは一生懸命に何かしている。
「美里さん、ごきげんよろしゅう」
声を掛けると、美里が背中を伸ばしてこはるに笑いかける。
「ごきげんよう、こはるさん」
「なにしてはるの?」
「さっきすばるさんが銀杏踏みそうになって、その前に実は私も踏みそうだったのよ。
だからこうやって落ちているのに気付いた銀杏は木の方へ寄せてたの」
「それはご苦労さんやねえ。大変やろ?」
「大変だけど、踏んだら悲惨でしょ?踏んだ人も、後から通る人も」
「ええ人や!」
がばっとこはるが美里に抱きついた。
「きゃ!」
美里は目を白黒させつつ照れくさそうに笑っている。
「枯葉の下の銀杏はなかなか気付かないのよね」
目の前の光景に笑いながら、すばるは足元の銀杏を割り箸でつまみ、木の根元に放る。
「銀杏も茶碗蒸しに入っとると嬉しいのに、こうして落ちていると嫌われて災難やなあ」
美里を解放し、自分も美里が調達してきたという割り箸を一膳貰って参加する。
「全くね。汚れてないのは持って帰ってお母さんに茶碗蒸しにして貰おうかな」
「それがええわ。でも、茶碗蒸しなら学園持ってきてご馳走してって言われへんわ」
「こはるさん、茶碗蒸し、好きなの?」
すばるが手を動かしながら訊ねる。
「茶碗蒸しに限らず好き嫌いはないよって食べるものなら何でも受け付けるで」
「本当?じゃ、今度何か持ってくるね」
「ほんま?ええ人や!」
こはるが今度はすばるにがばっと抱きついた。
「うわあああ」
思いがけない出来事に、すばるはバランスを崩してこはるごと後ろにひっくり返る。
「すばるさん!?大丈夫?こはるさんも」
慌てて美里が駆け寄ると、こはるが謝りながらすばるを助け起こしている真っ最中で。
「堪忍な。つい……」
「大丈夫よ、怪我はないし、銀杏も踏みつぶしてないし…」
冷静にスカートをはたきながらすばる。
後ろに回った美里もすばるのスカートの埃をはたいている。
「抱きつくのはこはるさんの癖?」
すばるの言葉に、こはるは小さくなって、
「そうや…感激するとついつい嬉しくて抱きついてしまうんや。ほんまに堪忍な」
「そうじゃなくて」
にやっとすばる。
「今度私も抱きつくから。なんとなく凄く仲良くなれた気がして嬉しかったから」
「ほんま?」
こはるが嬉しそうに目を輝かせる。
「いつでもええよ。いつでもがしっと受け止めるし」
「私も混ぜて」
美里も楽しそうに参加する。
「もちろんや。なんか嬉しい日やなぁ」
また銀杏拾いに戻りながら、なんとなく前とは違う空気が流れるのを感じて嬉しそうな3人だった。

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マリア様がみてるから


二年生の浅瀬綺羅はお聖堂の前を通りかかり、ちょっと考えた後でそっと中に入った。
いつもここに来ると敬虔な気持ちになる。
時々、規則で決まった礼拝の他にマリア様とお話したくなると、ここに来る。
もちろん、それは綺羅に限ったことではない。

中には先客が居た。
前の方に座って熱心にお祈りしているように見える。
綺羅は後ろの方に座ってマリア様にお祈りを捧げた。
後ろの扉が開いて誰かが入って来た気配がする。
振り向くと、同じく二年生の宝条響。
綺羅が前の方に座っている先客に遠慮して目顔で合図して、そっと目で挨拶を交わす。
「お祈り?」
小声で綺羅が訊ねると、
「ええ、たまには、と思って。綺羅さんも?」
「ええ、そうなのだけど…」
「だけど?」
ひそひそ……
「あちらの方、ずっとあの姿勢のままなの。余程大事なお祈りなのかも…」
「え・・そうなんだ・・」
響も綺羅の視線を追って前の席へ目を向ける。
なるほど、微動だにせず俯いている人影。
「お邪魔しちゃ悪いよね・・・」
響の言葉と、件の人物が前にかっくり倒れたのがほぼ同時だった。
「わ!」
悲鳴を上げたのは誰だったか………
綺羅も響も一瞬だけ固まったが、すぐに気を取り直し、前に急ぐ。
「いたた・・・」
同じく二年生の進藤璃都が額を押さえていた。
響と綺羅は顔を見合わせる。
「あ、ごきげんよう、響さん、綺羅さん」
片手で額を押さえたまま、ちょっとバツ悪そうに挨拶する璃都。
口々に挨拶を返しながらきょとんとしたままの綺羅と響。
「あの、璃都さん、お祈りなさっていたんじゃ…?」
綺羅の言葉に璃都が照れくさそうに笑う。
「お祈り?うーん、実はお昼寝に来たの」
「「お昼寝?」」
綺羅と響の声がだぶる。
「とっても真剣にお祈りしている方が居ると思ったのに……お昼寝だったのね」
綺羅が呟く。
「ごめんね。ついうとうとと。で、頭、前の椅子にぶつけてしまったわ。
マリア様の罰が当たったかしらね」
痛そうに額をさすりながら璃都。
「うーん、マリア様はお昼寝くらいで罰は与えないと思うけど」
考えながら響。
「そうよね。マリア様はそんなにお心が狭くないわ。でも、マリア様はいつも
見てらっしゃるから、恥ずかしい言動は慎まないとね」
「そだね」
綺羅の言葉に璃都も頷き、3人はもう一度正面に向き直り、お祈りを捧げ直した。

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天使が舞い降りる場所


温室の中に入ると、二年生の前田淑恵はゆったりと周りを見回した。
学園祭のだしもので、淑恵のクラスが温室を使うことになり、下見に来たのだ。
毎年誰が飾るのか、クリスマス前にはモミの木にみたてた木々が飾り付けられる。
今年は待降節として、それを桃組が学園祭で行うことになる。

クリスマスのオーナメントを飾ったとして、一番綺麗に見えるのはどこかしら?
できれば外からも見える方が良いわ。
でも、売り物だからあまり高いところに飾ってしまうと外すのが大変……

「淑恵さん?」
ぎょっとした声が聞こえて淑恵は我に返った。
振り向くと、淑恵の胸の辺りの高さに同じく二年生の音羽心の驚いた顔があった。
「ごきげんよう、心さん」
淑恵は高二としてはちょっと低めの身長、心はその淑恵よりも少し高い。
なのに、どうしてこの身長差があり、心が驚いているかというと、淑恵が温室内で一番大きな木の
一番低く太い枝の上に立っていたから。
「蝶や真響なら吃驚しないんだけど……」
下界に降りて来た淑恵に事の次第を聞いて、心が笑った。
「蝶ちゃんと真響ちゃん?わたくしは二人とも、木に登るところなんて見た事ないけど」
生真面目に首を傾げる淑恵。
「うーんと、私も見たことはないわ。でもほら、イメージよ、イメージ。
あの二人なら何しても誰も驚かないと思うから」
「イメージ、なるほど…」
淑恵は少し考えて、
「わたくしのイメージってどんな風なのかしら」
質問ではなく、独り言のような呟きだった。
「んー。淑恵さんはね、いつもお聖堂で会うイメージ」
答が返ると思っていなかったので、淑恵は目を瞬く。
「いつもお祈りしていて、マリア様にとても近いイメージかな」
「マリア様に…」
淑恵は微笑んだ。
「光栄だわ」
「パンフレットで見たけど、桃組のイベントの時は天使がたくさん舞い降りるんだね。
楽しみにしているね」
「ええ、是非いらしてね。藤組のお化け屋敷は………ええと、その……
い、忙しいから行けないかもしれないけど……」
淑恵にしては珍しく狼狽え気味。
「お姉さま、私、ご一緒にお化け屋敷行こうと楽しみにしておりましたのに!」
きょろきょろ。
突然の声に二人は吃驚して振り向いた。
いつの間にか淑恵の妹の一年生の月沢菊子が居た。
言葉の割りには楽しそうに微笑んでいる。
「ごきげんよう、心さま、お姉さま」
返事を返しながら、心は傍観体勢となり、淑恵は心持ち表情が硬くなる。
「菊子はお化け屋敷が好きなの…?」
淑恵が訊ねると、菊子はちらっと心に楽しそうな視線を投げてから真面目に頷く。
「お姉さまとご一緒するなら怖くないですもの」
淑恵は困ったような表情で妹を見つめる。
淑恵の後ろで、淑恵に見えないように心は菊子に行け行けー、と合図する。
応えて菊子がだめ押しの無邪気そうな笑みで、
「だってお姉さま。ここはマリア様のお庭のリリアンですわ。それに、私たちは桃組の待降節で
天使になるのでしょう?かえってお化けが怖がって逃げ出しますわ!」

学園祭当日、淑恵と菊子姉妹がお化け屋敷を訪れるのかどうか、心は密かにチェックしていようと
心に決めた。

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決戦は雨の日に


朱宮蝶は教室の窓越しに空を見上げていた。
「雨だわ………」
雨の日は放課後になるのが待ち遠しい。
なぜならば。
「今日こそ我が新体操部の手に!」
握り拳をぐっと握ると、蝶はクラスメイトに挨拶して颯爽と教室を出て行った。
雨の日。
それはグランドを練習場して使う運動部が屋外で練習が出来ないことを意味する。
部活動によっては廊下や階段で体力作りの基礎練習をする部活もあるが、
なんと言ってもやはり体育館や講堂に集まる率が高い。
体育館も講堂も、普通の日でさえ球技の部活と体操関係の部活が細切れに寸断して使用しているのに、
雨の日は人口密度がぐっと増す。
もちろん、新体操部は大会が近づくと大学部にある専用の新体操用の設備を使わせて貰うのだが、
普段は講堂での練習となる。
体操部と隣り合わせで………
その体操部には蝶の宿敵とも言える相手が居る。
三年椿組二ノ宮みさき。
なぜか最初からウマが合わなくて………
最初は図書館で五月蠅かったとか、お聖堂で五月蠅かったとか、そんな原因で不興を買ったことから
始まった………ような気がする。
でも、会う度にあからさまに嫌そうな顔をされて辛辣な物言いをされると、ちょっとからかってやろうなんて
思ってしまう性格の蝶である。
絶好の遊び相手、そのまたの名が「宿敵」だ。

三年椿組の教室では、そのみさきが、鞄に教科書を仕舞い、窓の外を見て拳を握りしめて真剣に頷く。
「雨だわ。今日も負けなくてよ」
脳裏に浮かぶ、天敵朱宮蝶の顔。
確かに自分はこのリリアンに置いては周りに余り馴染まない変わり種かも知れない。
辛辣な物言いに敬遠されることも多い。
しかし、あの子は…あの朱宮蝶は嬉々として真正面から切り込んでくる。
生意気で小憎らしくて高慢で、私は彼女が大嫌いだから、彼女を凹ませることができるとすっとする。
今日も鼻柱をへし折ってやる……
廊下に出て体操部の部室に向かいながら力が入る。

雨の日の講堂。
体操部と新体操部。
毎年それなりに上手く折り合って来たのだが、体操部と新体操部が練習場として二分する片方の場所には、
講堂用のグランドピアノが置いてある。
必然的にそこがスペース的に狭くなり、練習に不便なのだ。
どっちが多少でも広い方を手に入れるか、それは代々双方の代表の対決によって決められる。

そして今。
講堂に集まった体操部員と新体操部員。
その真ん中に立つ二人。
「先に3回連続勝った方が優先よ!」
高らかにみさきが宣言する。
「わたくしがじゃんけんが強いのに恐れを成しましたわね!正々堂々1回勝負ですわ!」
蝶が声高に叫ぶ。
新体操部・体操部。
それぞれの部運を背負った熱い闘いが今始まる───

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人生最良の日


リリアン女学園ミルクホール。
一番日当たりの良い席に一人佇む高等部の生徒。
手にしたカップには程よい甘さのロイヤルミルクティー。
美味しいミルフィーユを戴きながらミルクティーで喉を潤す至福の時。
今日は苦手な教科が突然の先生の不在で自主学習になったり、得意な教科で先生に指名されて
超高校レベルの問題に淀みなく答え、クラス中の称賛を浴び、外に出れば可愛い下級生達が
紅薔薇さまだと寄って来て交通整理が必要なほど。
生きているって素晴らしい、わたくしって素晴らしいと自画自賛したい鶴久灯里子、18歳の秋───

「紅薔薇さま?」
聞き覚えのある声にゆっくり顔を上げると、同胞、白薔薇さま。
「あら。ごきげんよう。ご一緒にお茶をどうぞ。わたくしの奢りよ」
優雅にカップを手にする仕草が自分でも心憎いほどぴったり決まる。
「ごきげんよう、お邪魔するわね。奢り?あら、でも、悪いわ」
白薔薇さまが遠慮すると、
「わたくしね、今自分にご褒美をあげていたところなのよ。是非ご一緒に祝って頂戴」
「ご褒美?祝う?…お誕生日なのかしら?」
「いいえ」
灯里子はカップをそっとソ−サーに戻して優雅に微笑んだ。
「誕生日はちょっと前に。今日はわたくしにとって人生最良の日なの」
にっこり。
灯里子の笑みに霧香がちょっと考えてから頷いた。
「良く判らないけれど、今日は灯里子さんの最良の日で…一緒にお祝いすればいいのね。
それはわかったわ。」
「紅薔薇さま、白薔薇さま、こんなところにいらしたのね」
声に二人が振り向くと、黄薔薇さま。
「薔薇の館ではなく3人揃うなんて珍しいわね」
挨拶を交わした後にそういうことになり、
「それだけでもお祝いに値するわ。黄薔薇さまもお茶とケーキ、召し上がってね、わたくしの奢りよ」
という話になる。
霧香と灯里子の遣り取りが再現されて、結局桜子も奢って貰うことになる。

3人の薔薇さまがティータイムを楽しんでいて、目立たないはずがない。
次から次へと生徒達が3人の元を訪れ御挨拶をし、奢って貰う話になる。
何度も同じ会話が繰り返され、同じように納得した生徒が次々へと………
「ミルクホールに行けば紅薔薇さまに奢って戴ける」
という噂は瞬く間に広がって、ミルクホールは何時にない混雑ぶりだった。
さすがの何事にも動じない紅薔薇さまでさえ、ちょっぴり心配になる。
白と黄の薔薇さまはとっくに心配して、
「大丈夫なの?」
と何度も灯里子に尋ねる。
大丈夫かと聞かれて大丈夫じゃないと答える灯里子ではない。
「ほほほ。わたくしにお任せくださいな。ばっちり大丈夫ですわ!」
白と黄の薔薇さまの折半で持つから、という申し出も蹴り、自分たちの分だけでも払うからという申し出も、
「わたくしの最良の日にけちを付けるわけにはいきませんわ」
と蹴ってしまい………
ミルクホール閉館の時間になり、灯里子はひとり会計に向かう。

会計の段になり、
「しめて131,000円です」
「まぁ。わたくしの愛しい妹、蝶の誕生日、1月31日に通じますわね」
動揺を抑えて灯里子は財布を手にし、
「ゴールドカードで」
と出したのだが、
「カードは扱ってません」
とミルクホールのお姉さんの返事。
「わたくし、現金なんて持ち歩いたことありませんのよ!」
灯里子は絶叫する。
「今日はわたくしの最良の日ですのよ!
こんなことで台無しにするわけにはいきませんわーーーーーっ!」


その後、灯里子は(学園祭前であるにも関わらず)しばらく行方不明だった。(↓紅い疑惑へ続く)

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紅い疑惑


「2番テーブル、醤油ラーメンと味噌ラーメンですわー」
「毎度有難う御座います。またどうぞー」
リリアン女学園麺食堂。
ここは主に大学部の学生が使う場所で、高等部の生徒は滅多に訪れない。
なのに、ガラスの扉にへばりついているのは高等部の制服に身を包んだ数名。
しかも、そのメンバーは薔薇ファミリーと呼ばれる山百合会生徒会所属するメンバー
であった。
「信じられない…」
「最近姿が見えないと思ったら…」
白薔薇さまこと冴島霧香と黄薔薇さまこと横大路桜子。
後ろにはそれぞれのつぼみも一緒だし、紅薔薇のつぼみの朱宮蝶が先ほどから肩を震
わせている。
それは先程から麺食堂内で繰り広げられている情景に対する怒りから来るものなのか。

山百合会極秘事項。
それは黄薔薇のつぼみ、山本和によって突然もたらされた情報だった。
「なんですって!?」
白薔薇さまが驚きの声。
「そんなことが…」
黄薔薇さまも絶句。
普段は滅多なことでは(もはや)驚かない薔薇さま方も驚くほどの情報だったのだ。
「和、それは間違いのない事実なの?」
黄薔薇さまはもう一度妹に確認した。
「間違いありません。というか、私が確かめたわけではないですけれど、紅…元紅薔
薇さまで私のお師匠、聖良さまの証言ですし…」
「聖良さまの……」
白と黄の薔薇さまは顔を見合わせた。
自分たちが二年生時の後期紅薔薇さまだった聖良さまは現リリアンの大学部の学生。
「『あれは確かに※のお従妹さんよ』と仰ってましたわ」
発音不可能な※印までそのまま。
ということは間違いなく聖良さまの発言であると思われる。
「ごきげんよう、皆さまがた。さわやかな日差しですことね」
颯爽と現れた朱宮蝶に深刻そうな顔を見合わせた白と黄の薔薇さまとつぼみたち。
「…どうなさいましたの?」
もちろんすぐさま情報が蝶にも伝わった。
「そ、そんな!!まさかっ!」
蝶が仰け反る。
「一体何があったのでしょう…」
白薔薇のつぼみの如月尚香も不安そう。
「確かめてみましょう」
きりりと蝶。
「本当に行くの?」
不安そうな和。
「自分たちの目で確かめないといけないわね」
白薔薇さまも立ち上がった。
丁度、出し物の書類を提出に来た友人達に理由も言わずに「急用ができた」というだ
けでその場を任せ、全員で駆けつけた。
というわけで、出入りする人も少なくなった麺食堂の扉に張り付いているわけである。
「どうしましょう?」
「館に戻って仕事もしたいけど、ここをこのまま放っておくわけにはいかないわね」
などと会話している内に日も暮れて。
「お疲れ様でした」
「お疲れさん」
麺食堂も店終いらしい。
これといった計画もなくやって来た山百合会メンバーの前に、話題のひと、紅薔薇さまこと
鶴久灯里子が出て来た。
「あなたたち!」
棒立ちになる灯里子を取り囲むようにメンバー達。
「お姉さま!」
「紅薔薇さま!」
「学園祭の近いこの時期、会議以外滅多に姿を見せないと思ったらこんなところで何を
なさってますの?」
蝶が詰め寄る。
「……」
蝶の言葉はそこに居合わせた全員の代弁であったから、皆無言のまま。
「わたくしは……」
灯里子は『裕福な家庭に嫁いだのに夫の経営する会社が破綻、夫は失踪。手に職もなく
借金を背負いつつラーメン屋で働く健気な若妻』さながらによろよろとよろめく。
「お姉さま!?」
灯里子は涙ながらに説明した。
先日気前よくミルクホールで大盤振る舞いをしたはいいが、お小遣いが底を尽き、同居の
親戚筋(仮)の方に迷惑を掛けるのが嫌で、ミルクホールで働いて借金を返すことを思いついた。
しかし、ミルクホールでは知り合いの生徒達の往き来があまりにも多い。
なので事情を話して代わりに麺食堂で働いている。
仕事をすること自体始めての経験で、美味しそうにラーメンを食べてくれる人の顔を見るのが
もう嬉しくて楽しくて………今では新作ラーメンなども考案しているという。
「だから蝶。わたくしは今しばらく学園祭関係の会議以外はこちらに詰めていることにするので」
「はい?」
「それともわたくしがいないと寂しい?案外甘えんぼさんね」
「ま、まさか!わたくしはお姉さまが居ないとせいせい致しますわ!」
「だったら構わないわね」
鷹揚に灯里子が微笑む。
「ですから、蝶。お姉さま命令よ。わたくしの分も頑張って努めてね。」
灯里子は妹以外のメンバーに目を向ける。
「白薔薇さま、黄薔薇さま、尚香さんも、和さんも。皆さんの能力はわたくし常日頃から高く
評価してますのよ」
灯里子が突然紅薔薇モードに入る。
「わたくしでいけないことはその都度連絡くだされば…あ、仕事が立て込んでいる時は直接此処に
来てくださったほうが早いかもしれませんわね。そういうことですので、どうぞよろしく」
「「「「「……………」」」」」
「もちろん、学園祭本番は参加してよ。楽しみにしているわ」
じゃ、そういうことで、と灯里子は颯爽と去って行った。
「紅薔薇さまーーーーー」
我に返って灯里子の後ろ姿に叫ぶ皆の声に
「お姉さまの大バカーーーーッ」
と叫ぶ蝶の声が混じっていたとかいなかったとか。

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それぞれのかたち


「わたくしね、凪にまだ言ってないのだけど…」
学園祭も近いある日の帰り道、校門まで来てから真響は凪を振り向いた。
「何ですか?」
凪の目を覗き込むようにしながら真響は言った。
「バスケ部とボランティア部合同で劇をするの」
「ああ」
凪が頷いた。
「…知ってたの?」
「劇をするという話は聞こえてました。そこまでしか知りませんが」
「…学園祭のパンフとかポスター観てないの?」
拗ねた口調で真響。
「ええ。観てないです」
「少しは興味を持って頂戴……」
「すみません」
あっさりと凪。
「それで何をするんですか?」
「『ロミオとジュリエット』よ」
「真響がジュリエットですか?」
「ええ」
「バスケ部といえば、ロミオは秋葉ですね」
「ええ」
つんとそっぽを向き、だんだん不機嫌になる真響。
「秋葉に真響を取らないように、と頼んでおきましょう」
「…ほんと?」
やっと真響は凪を観る。
「取られそうなんですか?」
「そんなはずないでしょ!秋葉とわたくし、仲良しだけど、お互いにそういう好みじゃないわ」
「それは何よりです」
「…でも、秋葉にはちゃんと言っておいてね?」
「わかりました」
凪の言葉に真響は嬉しそうに凪の手を取る。
「帰りましょう」
「そうですね」

仲睦まじく見えなくもないふたりが校門を出て行くと、後から二人組。
「やれやれ・・・・あれも一応らぶらぶと言うのかしらね」
尻尾を振りながらくすっと秋葉が笑う。
「らぶらぶ、でございますわ。あんな凪さん、観たことございませんもの」
一緒にいたあんぬが釣られるように笑う。
「無表情のようで居て、結構表情出るわね、最近の凪。去年に比べたら雲泥の差よね」
「真響は気付いてないようでございますけど」
「だから面白いのよ」
秋葉が意味ありげに笑う。
「秋葉は観察が好きでございますね」
「人間ウォッチングは大好きね」
「寂しゅうございますわ」
「もちろんあんぬのことも観ているわよ」
にこにこ。
見つめて微笑みあう。
「じゃ、わたしたちも行きましょうか」
「はい」
肩を並べてこちらの二人も睦まじく歩き出したのだった。

 

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やがて訪れる別れに


「やっぱりここでしたのね」
藍月六花は薔薇の館からほど近い中庭のベンチに座っている友人を見つけて微笑んだ。
胡乱そうにちらっと六花の方を見たきり、相手はまた真っ直ぐに前を向く。
「出会いは…」
六花が相手の許しも乞わずに当然のように隣りに座ると、彼女は唐突に話し出した。
「出会いは突然だけど…別れは…そこにあることがわかるものよね」
「……」
相手の真意が読めずに六花は黙る。
「貴女と私も別れは来年3月だってわかっている」
真っ直ぐに前を向いたまま彼女は淡々と続けた。
「もう半年しかない…その間、私は何をしたらいいのかしら。後で思い出した時に後悔しないためには…
どうしたらいいのかしら?」
六花は相手の厳しい横顔に笑いかけた。
「このままで良いではありませんか。今、私たちは此処にこうして一緒にいる。それだけで」
はじめて彼女は六花をじっと見つめた。
「それだけでは嫌なの」
「………」
「……過去は変えることが出来なくても未来は努力で変えることが出来るから……」
「……?」
訝しげに六花は相手を見つめた。
「何でもないわ」
唐突に彼女はベンチから立ち上がった。
「決めたわ」
「何を?」
六花の問いに彼女は答えなかった。
答える代わりににっこり微笑んだのだ。
「用事を思い出したから、またね」
ごきげんよう、と立ち去る彼女を六花は不可思議な笑みを湛えて見送る。
「…あなたがどう思おうとも…私は貴女を愛してますわ、佐里さん」

高等部卒業後に六花が留学する事になっているフランスに、佐里もまた留学を決めたのは、
それから直のことだった。

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リトライ


「本当にいいのかしら?」
庵原月子が回りを見回して妹と孫を振り返る。
「陸上部にお願いしておきましたし、大丈夫だと思います」
「そうですよ、月子さま。袴も借りてきましたし」
妹の華城真響が請け合い、孫の岡本クルミもにっこにっこ笑顔で頷く。
体育祭で実現しなかった、月子と真響姉妹の袴競走。
もちろん、競走自体はとっくに終了しているし、真響とクルミが一位で賞も取れた。
でも、それで満足してお終い、にするには心残りがあったのだ。
お姉さまと走りたい。
真響がずっとそう思っていて、やっとチャンスが巡ってきた。
11月も半ば、真響自身の誕生日にそれは実現可能となった。
陸上部の紫月光は真響の話を聞いて、快諾してくれた。
「トラックを一寸貸してあげればいいんでしょう?いいよ。部長に話しておくから」
「ごめんなさいね」
謝る真響に
「気持ちはわかるもの」
と光。
「私も走れなかったから姉さまや妹、誘おうかなあ?」
「機会があったらやった方が良いわ」
真響が握り拳。
「後悔しても遅いのよ」
「そうだね」

ということで、この日の放課後は、グランドで陸上部員達が三姉妹を迎えてくれた。
「練習のお邪魔をして申し訳ありません」
月子が二年生の部長に深々と頭を下げる。
もうここまで来たら尻込みしていられない。
妹と孫に期待されて、それで引っ込んでは大姉としての面目が廃るというもの。
「気になさらないでください。どうぞ。こちらです」
既にジャージだったので3人は導かれるままにスタートラインに着く。
「お姉さま、月子さま、頑張ってくださいねー」
クルミが両手を振って応援する。
声援に応えながら、二人は袴を身に着ける。
「真響とクルミちゃんまでとはいかなくても、近い記録は出したいわ」
「頑張りましょう、お姉さま」
きりりと張り切る月子、嬉しそうな真響。
真響は手を振って応援しているクルミを振り向いた。
「お姉さまとわたくしが終わったら次はクルミとお姉さまね」
「えー、そんな。わたしはいいですよー」
クルミが焦って遠慮する。
「クルミちゃん、私と走るのは嫌?」
寂しそうに月子が言うと、クルミはさらに焦った。
「そそそそそんなことは!」
「クルミも姉妹なのだから走るの当たり前でしょ?一足先に行ってくるわね」
「は、はい!」
「後でね、クルミちゃん」
「はい、行ってらっしゃいませ!」
姉妹だから………
仲睦まじげに肩を組んで走るお姉さまと月子さま。
そこには自分が入る余地はないのではないかとちょっぴり拗ねたりもして。
でも、そうじゃなかった。
お姉さまと月子さまは姉妹だけど、自分もお姉さまと姉妹で、その御縁で月子さまとも繋がっているのだと、
クルミは素直に理解できた気がした。
「えへへ」
なんだか嬉しい。
すうっと息を吸い込むと、クルミは両手をメガホンにして大声で叫んだ。
さっきまではちょっとヤキモチもあったけど、今は素直に言える。
「月子さまー、お姉さまー、頑張ってくださいねーーーっ!」

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ささやかな願い


「今日の練習はこれくらいにしましょう」
秋葉の言葉に一同の間の緊張がふっと緩んだ。
学園祭で上演が決まったバスケ部ボランティア部合同の劇の練習。
仲良し同士でチームワークはばっちり。
でも、普段とは勝手の違う練習に戸惑うことも多い。
その上、全員クラス別のだしものにも参加しなくてはならないので、多忙を極めている。
それでも、皆で何かを成し遂げる喜びがどれだけ大きなものか良く判るから。
学園祭までの短い期間、練習には更に熱が入っていた。
「お疲れ様でした」
「お疲れー」
練習場に借りてある教室の、机や椅子を元に戻す作業もてきぱきと馴れたもの。
「それではお先に失礼致します」
次々に生徒達が帰り、残ったのは真響とクルミ、秋葉とかなで。
「ねえ、真響、ここだけど・・・・」
秋葉はシナリオを手に真響のそばに来て、ふと立ち止まった。
クルミと真響を見比べると、シナリオを閉じる。
「わたしたちも今日はこれで失礼するわね」
秋葉が荷物を片付けるのを、真響とクルミはきょとんと見守る。
「わたしたちってなんでわたしも入るんですかっ?」
秋葉に促されてかなでが逆らう。
「秋葉さまが真響さまと語り合っている間、わたしはクルミさんといいことをして遊んでいますから、お気遣いなく!」
「わたしの言うこと、聞けない?もしかして」
にこにこと笑顔でかなでに迫る秋葉。
「い、行きます!わーい、嬉しいな。秋葉さまと一緒に帰れるー」
棒読みで心情を表現するかなで。
「途中で体育館裏に寄って行きましょうか?」
にこにこ………笑顔を絶やさずに秋葉はかなでをがしっと確保する。
「後は若い人たちだけで」
お見合い斡旋好きのおばさんのような台詞と共に、秋葉がかなでを引きずって出て行った。
ぱたむ。
「体育館裏は結構ですぅーーー」
かなでの悲鳴がフェイドアウトする。
「……何だったのかしら?」
「変ですね、秋葉さま」
「秋葉が変なのは珍しくないけど……」
秋葉が聞いたら怒りそうな台詞をさらっと吐く真響。
「かなでさんは大丈夫でしょうか?」
「大丈夫よ。秋葉だって考えるでしょうし。ほら、学園祭前だしね」
「・・・・そ、そうですね。大事なきゃすと、ですしね」
声が裏返ってしまうクルミ。
やはりお姉さま方は計り知れない。
真響がシナリオを鞄に仕舞っているのを見て、
「お姉さまはお帰りですか?」
思わずクルミが言うと、真響はちらっと笑みを浮かべた。
「本番が近いから練習ばかりだけど、たまにはこうして二人きりの時間があっても良いと思わなくて?」
「え・・・・えっと、はい・・思います」
真響はクルミの顔を覗き込んだ。
「なんだか心がこもってないわ。わたくしと二人きりになるのは嫌?」
「ま、まさか!そんなことはないです!ただ・・・」
「ただ?」
「わたしとこうしているよりも、お姉さまはしたいこと沢山あるんじゃないかなって思ってその・・・申し訳ないなって・・・」
真響は考え込むように首を傾げた。
「妹とこうして二人きりで会って沢山パワー貰えるのに…他にわたくしのしたいことって?」
「凪さまとか月子さまとかその・・・」
目を伏せながらクルミが小声で言う。
真響はゆっくり顔を上げた。
困ったように、目を伏せるクルミを見つめる。
「わたくしは……不器用で大好きな人をしょっちゅう苦しめているるけど……」
真響は淡々と喋り出す。
クルミは顔を上げてお姉さまを見つめた。
「それでも、手を離したくないの。欲張りなの……お姉さまもクルミも凪も、わたくしにはなくてはならない人だから」
「わかってます」
クルミは静かに頷いた。
「それは良く判っています。今はもう、3人のうち誰が欠けても変だと思うほどです。でも・・・」
「でも?」
「頭ではそうだとわかっているからと妬かないわけではありませんから」
ぷい。クルミがまたそっぽを向き、真響はちょっと考えて真面目に頷いた。
「本当ね。そういう時はぶつけてちょうだい。そう言われたからって何が出来るかわからないけど…仕舞っておかないで。
わたくしもいつも忘れてはいけないの」
ぱっとクルミが顔を上げる。
「で、でも・・・それはお姉さまが負担ではないですか?」
「負担ではないわ。わたくし、クルミが好きですもの」
「わたしも・・・わたしもお姉さまが大好きです・・・」
真響はクルミをそっと抱き締める。
言葉で上手く言えない思い、ままならなくてもどかしくて。
でも、こうして向き合っているときっと伝わる思い………
クルミは真響にしっかりと抱きつく。
『大好きです、お姉さま』
心の中で繰り返す。
お姉さまの好き、と、クルミの好きは交差しない、と思う。
でも、離れたくない。
お姉さまが自分を必要だと仰る限り傍にいたい……
今こうして充電したらまた頑張れるから。
「クルミ、何を考えていて?」
どきっ。
真響の腕の中でクルミがびくっと震えた。
「わたくしはクルミを全部受け止めたいわ。それが出来るくらい強くなるから」
「お姉さま・・・」
『大好きです、お姉さま』
真っ直ぐに真っ正直な気持ちをぶつけられる日は………
来て欲しいのか来て欲しくないのかわからない。
でも、今のこの関係を、気持ちを、大切にしていきたいと思う。
クルミは大好きなお姉さまに、さらに強くしがみつくのだった。

 

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04/11/25 2藤 華城真響