「元素な毎日」

さまざまな金属元素にまつわるエピソードを会話文で紹介するコラムです。
あまりに軽いノリで申し訳ございません。気楽に読んでください。kaztec

既に取り上げられてしまった金属元素たち

【リチウム】原子記号Li、原子番号3
【ベリリウム】原子記号Be、原子番号4、原子量9.012、融点1551℃、比重1.847
【ナトリウム】原子記号Na、原子番号11、原子量22.99、融点97.8℃、比重0.971
【マグネシウム】原子記号Mg、原子番号12、原子量24.305、融点648.8℃、比重1.738
【アルミニウム】原子記号Al、原子番号13、原子量26.98、融点660.4℃、比重2.698
【アルミニウム2】原子記号Al、原子番号13、原子量26.98、融点660.4℃、比重2.698
【カリウム】原子記号K、原子番号14、原子量39.098、融点63.7℃、比重0.862
【カルシウム】原子記号Ca、原子番号19、原子量40.08、融点838℃、比重1.55
【スカンジウム】原子記号Sc、原子番号21、原子量44.96、融点1541℃、比重2.99
【チタン(チタニウム)】原子記号Ti、原子番号22、原子量47.88、融点1725℃、比重4.54
【バナジウム】原子記号V、原子番号23、原子量50.94、融点1887℃、比重6.11
【クロム】原子記号Cr、原子番号24、原子量51.996、融点1857℃、比重7.19
【マンガン】原子記号Mn、原子番号25、原子量54.94、融点1244℃、比重7.44
【鉄】原子記号Fe、原子番号26、原子量55.85、融点1535℃、比重7.874
【コバルト】原子記号Co、原子番号27、原子量58.93、融点1495℃、比重8.900
【ニッケル】原子記号Ni、原子番号28、原子量58.69、融点1453℃、比重8.902
銅】原子記号Cu、原子番号29、原子量63.546、融点1083.4℃、比重8.96
【亜鉛】原子記号Zn、原子番号30、原子量65.39、融点419.58℃、比重7.13

【リチウム】
新たに得られたリチウムは光輝ある銀のやうな光沢をもってゐる。
しかし湿気に曝せばその表面が迅速に錆びる。このものは既知の
固体元素の中で最も軽く、比重は約0.534に過ぎない。鉛
よりも軟らかいが、ナトリウムおよびカリウムよりは硬い。
溶融点は180℃である。
(加瀬勉『金属の効用』昭和18年より)


シロ子「また、おかしなシリーズを始めたわね。いつまで続くの?」
kaztec「金属元素を全部やっつけるまで。」
シロ子「気の遠くなるような話ね。で、今回はリチウムなの。」
kaztec「そうさ、金属といえばリチウムから話を始めなくっちゃね。」
シロ子「何故なの。」
kaztec「それは、一番軽い金属だからさ。『スイヘーリーベーボクノフネ』
って昔やったよね。そのスイヘーリーベのリーなんだ。」
シロ子「じゃあ、原子番号は、ひいふうみい、3番目なんだ。」
kaztec「そうさ、原子量は、6.941、比重は加瀬さんが述べているように
0.534で水にも浮くくらい軽いんだよ。」
シロ子「誰が発見したの。」
kaztec「スウェーデンのアルフェドソンが、ペタル石から見つけたんだ。
1817年のことだよ。当時、ナトリウムとかカリウムとがが生物界の中に
たくさんある事は知られていて、このリチウムは石ころ、つまり鉱物界に
あるってことで、ギリシャ語の石という言葉lithos(リソス)から
名づけられたんだ。」
シロ子「リチウムって、どこかで聞いたことがある。そうだ、電池になかった?」
kaztec「リチウム電池のことかい。リチウムを陰極にしたボタン電池はよく
見かけるね。ニッケル水素電池よりも電流値が大きくなり、電圧も3.5V
と高く、それに蓄積できるエネルギーも倍増できるんだ。」
シロ子「他に使い道はあるの。」
kaztec「そうだね。自動車用の潤滑グリースや低温用のグリース、航空機用材料
とかに使われているね。他には、ええっと有機リチウムとしてイソプレンという
合成ゴムの原料の製造触媒としても使ってるよ。」
シロ子「それだけなら、なんだか何処にでもある普通の金属のようね。」
kaztec「そうそう、こいつはどうだ。炭酸リチウムは、ものすごく良く効く
抗うつ効果があるんだ。」
シロ子「抗うつって、うつ病に効くの?何故?」
kaztec「原理は分からないけど効くらしいよ。神経細胞内のイオンバランスを
調整するからと言われているんだけど。」
シロ子「私も、子供を毎朝起すだけで疲れ果てて、うつ病になりそうなので
リチウムを食べようかしら。」
kaztec「だめだよ。過剰摂取は、腎臓がやられたり、昏睡状態になって死んで
しまうくらい有毒なんだよ。薬として使う場合も、厳密に血の中のリチウム
濃度を見ながら投与するんだよ。」
シロ子「へえ、そうなんだ。じゃあ、リチウム電池を舐めると毒なの?」
kaztec「リチウム電池に限らず、あんなもの舐めないよ。」
シロ子「でも、おとうさんは飴を舐めるの好きだよね。飴と間違って舐めない?」
kaztec「ああ、あほらしなった。もう会社いく。」
シロ子「間食ばかりしている事を言われると、すぐ逃げ出すのね。行ってらっしゃい。」

【ベリリウム】原子番号4、原子量9.012、融点1551℃、比重1.847

ベリリウムは白色の金属でマグネシウムよりは大分硬い。その比重は、
1.84、溶融点はかなり高く1280度で、融解熱は他の如何なる
金属よりも大きい。高温度においては展性に富みベリリウムの小球を
鎚で打てば容易に扁平になるくらいである。(中略)ベリリウム・銅
合金は耐摩耗性も著しい。従って強度の酷使に耐える軸承として役立つ。
又他の青銅よりは高温度に耐へ、耐熱性も強いことから、内燃機関の
弁案内、ポンプ、液量計などの製造に有用である。
(加瀬勉『金属の効用』昭和18年より)


シロ子「ベリリウムなんて聞いた事もない。こんなのいらない。」
kaztec「ほう。ベリリウムはいらないのか。ベリリウムて宝石なのを
知らないんだな。」
シロ子「宝石?そんな名前の宝石は知らないよ。」
kaztec「ベリリウムは緑柱石、つまりベリルの成分で、天然界には
2BeO・Al2O3・6SiO2として存在するんだよ。」
シロ子「知らないなあ。」
kaztec「緑柱石は、緑色とか青色、淡黄色をしていて、深緑色の結晶
は、エメラルドとかアクアマリンと呼ばれるんだ。」
シロ子「ちょっと待って。」
kaztec「まあ、シロ子さんはいらない様だから、関係ないけどね。」
シロ子「ちょっと待った。」
kaztec「で、ベリリウムは1797年に、フランスのボークランが
当時未知の金属酸化物を発見したんだが、元素を分離することができず、
これが舐めると甘かったので、甘いというギリシャ語からグルシナム
と命名したのが始まりなんだ。」
シロ子「昨日、誕生日だったけど、贈り物を貰っていない。」
kaztec「残念、エメラルドは5月の誕生石なんだ。またの機会にね。」
シロ子「でも、エメラルドを舐めると甘いの。」
kaztec「僕も舐めた事はないけど、酸化物は甘いらしいよ。でもね、
ちょっとの量で死んでしまうくらい毒性が強いんだよ。」
シロ子「へえ、宝石を舐めると死ぬのか。でも何で?」
kaztec「何故毒になるのかはわかっていないんだ。でもね、ベリリウム
の利用が始まった頃、工場でベリリウム症って呼ばれる食欲不振や
呼吸困難、肉腫などが発生したらしいよ。まあ、いまではこういう事
はなくなったけどね。」
シロ子「ベリリウムって、宝石以外に使い道があるの。」
kaztec「そうだね。ベリリウムは原子番号が小さいだろ。それで、
電子が原子核の周りに強く引き付けられていてこじんまりと安定
しているんだ。このため、X線が電子と相互作用をすることが少なく
X線をよく通すんだよ。こういう性質があるんで、X線管からX線
を取り出す窓の部分に使われているんだよ。」
シロ子「なんだか怖そうね。X線って毒なんでしょ。」
kaztec(シロ子さんの発言は無視して)「この他、中性子の減速材
として使われたり、銅に1から2%くらい混ぜて合金にして、強力な
バネにしたり、人工衛星とか精密機械の部品にしたりするんだ。
それに、ベリリウムを含む合金の使い道で面白いのは、火花を発しない
工具が作れるんだ。それで、この合金の鎚や鑿(のみ)は燃焼ガスの
発生する場所でも使えるんだよ。」
シロ子「朝からよくしゃべったね。まあ、わかったことにしておく。
あ、電話だ。大阪のお父さんからよ。」
kaztec「きっと、昨日の阪神の優勝についての電話だ。やっぱりだ。
うん、うん、すごかったな。へえ、道頓堀で5000人も川に飛び込んだ
のか。でも、大田知事はあそこに塀を・・。2時まで特番を見てたのか。」
(この後は関係ない話になったので、フェードアウト)

【ナトリウム】原子番号11、原子量22.99、融点97.8℃、比重0.971

カリウム、ナトリウム、カルシウムなどの金属元素は、イギリスのデーヴィー
によって次々と発見されていった。(1807年)彼は、普通の化学的な
方法では単離できなかったアルカリ金属を、電池による電気分解の画期的
な方法を用いて遊離することに成功した。ギリシア語のナトロンは、古く
古代エジプトのntr(j)(ナトロン)に起源を持つといわれている。
ギリシア語はアラビア語、スペイン語の言葉にうけつがれてヨーロッパに
浸透した。ナトリウムをさすもう一つのsodiumについても、アラビア語の
sudaに由来(頭痛)に由来すると説く向きがある。頭痛を治すためにソーダ
を含む植物sodanum(アツケシソウ)を用いたためか。
(大槻真一郎編著『記号・図説 錬金術事典』1996年 同学社)

シロ子「アツケシソウなんて聞いた事ないなあ。」
kaztec「アツケシソウじゃないんだ。アッケシソウ、厚岸草と書くんだよ。
Saltwortと呼んで、河口とか干潟などの海岸近くの塩生湿地に大群落を形成する
んだよ。(この項、エンカルタ記述を参照)秋には茎が真っ赤にそまるんだ。
アッケシソウは、北海道の東部の厚岸湖の牡蠣(かき)島で発見された事に
因んで付けられたんだよ。」
シロ子「その厚岸草とナトリウムが何の関係があるの。」
kaztec「この草からは、ナトリウム塩が採取されるんだ。昔は、この草を
焼いて、アルカリ性の灰を作って、ガラスの製造に用いたんだ。ガラスの上薬
には炭酸ナトリウムが必要だからね。また食べられるんで、ヨーロッパでは
ホウレンソウのように野菜とみなされ、茎や葉をピクルスの材料として
つかっているよ。」
シロ子「また、今日も見てきたようなしゃべり方でよくしゃべるよね。
日本のスーパーじゃ売ってないよ。」
kaztec(悪口を全く無視して)「ナトリウムと聞いて何を想像する?」
シロ子「塩。」
kaztec「他は?」
シロ子「ベーキングパウダー。」
kaztec「大昔、自分でパンを焼いていたと言ってたね。炭酸水素ナトリウム
の事だね。」
シロ子「ナトリウムって、食べ物以外に役に立たないの?」
kaztec「原子炉の冷却材とかナトリウムランプに使うよ。」
シロ子「また、食べ物からえらく離れた使い方ね。塩で、原子炉を冷やして
いるの。」
kaztec「塩じゃないよ。塩は塩化ナトリウム、冷却するのは金属ナトリウム。」
シロ子「なぜ、金属ナトリウムで原子炉を冷やすの。」
kaztec「ナトリウムはね、融点が97.8℃で、沸点が882℃と非常に広い温度範囲で
液体なんだ。それに熱伝導率も高くて冷却材にはぴったりなんだよ。それに、
単原子の金属なので放射線で分解する心配もないし、放射能による誘導放射能も
ある程度時間をかけて減衰を待てばとくに問題にならないとされているんだ。
液体金属冷却高速増殖炉の冷却材として、日本では常陽(もんじゅ)に使われたよ。
シロ子「なんだか怖そうね。ナトリウムランプも放射能?」
kaztec「全然違うよ。ナトリウムランプは、ランプの中にナトリウムの蒸気が入れて
あって、放電するときにこの蒸気が発光するんだ。ナトリウム蒸気の圧力によって、
低圧ランプと高圧ランプがあるけどね。低圧は、道路照明とかトンネル照明に使われて
いるよ。高速道路でトンネルに入ると、黄色っぽいランプがついているだろ。高圧
ランプは、屋外照明とか高い天井の工場とか倉庫などの屋内照明に使われているんだ。
シロ子「良く分かったけど、今日はちょっとしゃべり過ぎじゃない。疲れるよ。」
kaztec「本当だ。もうこんな時間だ。ナトリウムの続きは明日だな。」
シロ子(小声で)「別に聞きたくもないけど。」
kaztec「なんか言った?」
シロ子「いえいえ、非常に参考になったわ。」
kaztec「『参考になった』というフレーズは、『私は全く興味がございませんが
これだけしゃべって、あなたのストレス解消になりましたか』という意味だぞ。」
シロ子「晩御飯の準備があるの。じゃあまた明日。」
kaztec「明日は、始発でオペラにいっちゃうよ。今日聞かせようか。」
シロ子「いえいえ、結構。」
kaztec「『いえいえ、結構』とは、・・・・」(この後、しばらく問答が続く。)


【マグネシウム】原子番号12、原子量24.305、融点648.8℃、比重1.738

マグネシウムは動植物にとって必須金属元素のひとつである。成人
(体重70kg)には20〜30gふくまれ、タンパク質、核酸、脂質
の生合成に関わる酵素類の活性化、軟骨と骨の成長、脳と甲状腺機能維持
に重要である。リン酸塩、炭酸塩として骨や筋肉に分布し、欠乏すると
筋肉のふるえ、脈の乱れがおきる。しかし、マグネシウムの体内での代謝
についてはまだよくわかっていない。植物には光合成色素であるクロロフィル
(葉緑素)の中心にマグネシウムが存在する。葉緑素は緑であるのはこの
マグネシウムのためだと思われるが、クロロフィルの中での役割はわかって
いない。
(桜井弘編『元素111の新知識 引いて重宝、読んでおもしろい』より)

kaztec「マグネシウムが不足すると痙攣が起こるって、どこかに書いてあったな。」
シロ子「ランナーズよ。確か、走っている最中の痙攣は、汗でマグネシウムが
流れ出して不足すると起こるって書いてあったよ。」
kaztec「そうか、僕がいつも30キロくらいで足がつるのはこのせいか。」
シロ子「それは違うよ。練習不足のせいよ。」
kaztec「厳しいなあ。でも、このマグネシウムって葉っぱの中にも入っている
らいしから、緑の葉っぱを走っている時食べればいいのかな。」
シロ子(kaztecの与太話をまったく無視して)「マグネシウムって緑色してるの。」
kaztec「いや、普通の金属と同じ白銀色だよ。まあ大気中では表面は酸化されて
いて一皮、酸化マグネシウムで覆われているけどね。」
シロ子「マグネシウムって確か、お塩にも入っているけど、他にどんな使い道
があるの。」
kaztec「用途か?よくぞ聞いてくれました。」
シロ子(kaztecの勢い押されて、ちょっと身を引きながら)「簡単でいいのよ。
朝は忙しいから」(この項は、ちょうどコーヒーを持ってきたシロ子さんとの
本当の会話です。毎朝、二階のkaztecの執筆コーナーまで運んできてくれます。)
kaztec「昔は、写真のフラッシュに使われていたよ。マグネシウムリボンが
入ったランプに電気を通すと、ボンという音とともに光るんだ。知ってる?」
シロ子「なんとなく覚えている。じゃあ、いまではあんまり使われないの。」
kaztec「全然その反対。炭酸マグネシウムは、耐火物や絶縁材の原料に使われて
いるよ。マグネシウム煉瓦なんかあるんだ。その他、医薬品とかゴムの補強材と
なんかにも利用されているよ。塩化マグネシウムは、木綿や羊毛の仕上げ剤や
製紙工業に利用されてるし、そうだ、お豆腐の凝固剤にも使われているんだ。」
シロ子「苦りのことね。ところで、さっきの『全然その反対』って日本語おかしよ。」
kaztec「いいじゃないか、雰囲気が伝われば。シロ子さんも、『子供達は、1ミリも
勉強しない』って時々言うぜ。」
シロ子「あれはいいの。で、なんとなくわかったけど金属としては使われないの。」
kaztec「さっきの撮影用フラッシュランプ以外には、アルミニウムや銅などを添加した
マグネシウム合金ってあるんだ。これが軽く強度があって、アルミニウム合金なんかに
くらべると耐食性は劣っているんだけど軽量であるため、航空機や自動車用の部品、
義肢の部品などに使われるんだよ。軽さと強度が売りなんだ。そうだ、パソコンの
ケースなんかにも使われているな。フォルクスワーゲンのビートルって車があるだろ。
あの車なんか、これを20キロ使って車重を下げたってどこかに書いてあったよ。」
シロ子「ふうん、じゃあ、鉄なんかよりも使いでがあるんだ。」
kaztec「どっこい、そういう訳にはいかねえんだ。マグネシウムにも渡世の義理って
いうもんがあらあな。」
シロ子「朝から突然変なしゃべり方になってね。寝てるとき頭打たなかった?」
kaztec「いや何ね、金属マグネシウムって作りにくいんだよ。知りたい?」
シロ子「忙しいので簡単にね。」
kaztec「おほん。では始めるとするかな。金属マグネシウムは、工業的には、
熱還元法と電解法で製造するんだ。熱還元法は、フェロシリコン法とも呼ばれ、
鉄とシリコンの合金であるフェロシリコンと炭酸マグネシウムを含む苦灰石を
混ぜて、真空中で1200℃まで加熱するんだ。そうすると、金属マグネシウムが
蒸発してきて、いわゆる蒸留状態になって分離回収できるんだよ。沸点は1090℃
だからね。電解法は、塩化マグネシウムを電気分解して、マグネシウムと塩素に
分離する方法だよ。あれ、シロ子さんどこへ行った?」
シロ子「もう7時よ。子供達を起してるの。マグネシウムはもういいよ。」
kaztec「では、本日のお話はこれまで。」
シロ子「誰に向かって話しをしてるの。変な人。何時に会社に送って行けばいいの。」
(kaztecは、昨晩、懇親会で日本酒をガブ飲みしたため、今朝は車がなかったのでした。)

【アルミニウム】原子番号13、原子量26.98、融点660.4℃、比重2.698

美貌のユウジニイ・モンティヨを妃に持つ仏蘭西皇帝ナポレオン三世は、
図抜けたことが特にお好みであった。ある思想が突飛であればあるほど、
これに覚える皇帝の感激はますます旺盛になるのであった。だから、
数年前のこと、物理科学報道官を務めている上院議員のジャン・パブティスト・
デュマが、巴里の高等師範学校のサント・クレエル・ドヴィルと申す
若い教員がございまして、砂混じりの粘土から銀をとる方法を発見
致しました、と皇帝に言上した時には、もうそれ以上の言葉を添えなくても、
皇帝を動かしてこの青年に学究に有力な援助を与える事ができたのである。
(中略)
ドヴィルは、第一年目に20グラムのアルミニウムを製造した。
ナポレオンは甲騎兵たちに、軽いアルミニウム製の胸甲を着せてみたくて
堪らなかったのだろう。ゆくゆくはサーベルも、銃身も、大砲も、いままで
の三分の一しか目方がかかるまい、などと想像すると、彼は大きな満足を
覚えたのである。この想像は、遂に夢想の域を出なかった。
(シェンチンガア『小説金属 軽金属篇』アルミニウムより)

シロ子「アルミのよろいなんて、なんだか頼りないよね。」
kaztec「まあそういうなよ。いつでも、新しいものが発明されたり発見されたり
するときは、夢物語から始まるんだよ。」
シロ子「でも、アルミニウムって、ナポレオンの気まぐれで世に出たの。」
kaztec「まあ、いずれ発見されてはいただろうがね。」
シロ子「で、なんで『夢想の域を出なかった』なんていわれているの。」
kaztec「この後のくだりで、『アルミニウム1グラムの値段は、・・・ほぼ
黄金1グラムの値段に匹敵した。でアルミニウムは、武器製造者用の金属と
いうよりは、どちらかといえば宝石商に向いていた。』とあるんだ。」
シロ子「へえ、アルミニウムは宝石なの。」
kaztec「1867年の巴里万国博覧会で、アルミ製の時計の鎖やタバコ入れ
なんかが出品されたんだけど、あまりにも高すぎて、皇帝しか購入できなかった
という逸話があったんだ。ナポレオンの晩餐会では、銀食器よりも高いアルミ
食器が貴賓用に使われたんだよ。」
シロ子「なんで、そんなに高かったの。」
kaztec「あ、もうこんな時間だ。続きは明日。」
シロ子「なんだ、もう終わり。今日はあっさりしたものね。」

【アルミニウム】原子番号13、原子量26.98、融点660.4℃、比重2.698

主なアルミナ化合物
◆Al2O3 硬度9  鋼玉、ルビー、サファイア
◆MgAl2O4    硬度8 スピネル
◆Al(F,OH)2・AlSiO4 硬度8 黄玉(トパーズ)
◆Be3Al2(SiO3)6 硬度7.5 エメラルド、アクアマリン
◆3FeO・Al2O3・3SiO2 硬度7.5 柘榴石(ガーネット)

純粋に近い酸化アルミニウムが鉱物として産出する場合があるから、自然界と
いうものは面白い。そして純度の高い酸化アルミニウム結晶として産出する
場合には、その鉱物はコランダム(鋼玉)と呼ばれ、宝石として取り扱われる。
無色透明ならホワイト・サダイア、赤く着色しているとルビー、青い色をして
いるとサファイアである。ルビーの美しいものなどは、ダイアモンドを凌ぐ
貴重な宝石になるのだか、科学的にいえば単にクロムを含んだ赤い酸化アルミ
ニウムにすぎない、ということになってしまう。
(崎川範行『閑談・金属学』より) 


シロ子「以前、おとうさんべっ甲も宝石って言ってたよね。」
kaztec「べっ甲は亀。宝石は宝物にする石ころなんだよ。亀は石ころじゃあないよ。」
シロ子「でも、いつ聞いても、金属学って情緒のない表現をするね。ルビーが赤い酸化
アルミニウムである、なんて聞いたら幻滅ね。ルビーはルビーよ。」
kaztec「まあ、別にどっちでもいいけどね。それをあり難がっている人にはルビーって
名前でいいんじゃない。ルビーと名前をつければ高く売れるんだし。」
シロ子「なんだか、宝石の事をバカにしてない。」
kaztec「いや、物の価値なんてそんなものじゃないかな。例えば、グッチのバックだって、
素材を見れば、そこらで売っている塩ビだしよ。百円均一の店で買えるものを、名前を
替えるだけでその何千倍の値打ちになるんだよ。」
シロ子「なんだかバカにしているような気がするなあ。」
kaztec「だって、お金を考えてごらんよ。1円玉ってアルミニウムでできているだろ。
でも、あの1円玉をその素材の酸化アルミニウムから作ろうとすると、1円以上かかっちゃう
んだぞ。『1円以上のエネルギーを使うことになるので、下に落ちた1円玉は拾わない』と
言われている1円玉がだよ。」
シロ子「要は、物の値段なんていんちきだと言いたいの。」
kaztec「気がついた?例えば、1万円札は日本で使うと1万円の値打ちがあるんだが、
孤島で持っていても、紙にしか過ぎないんだよ。」
シロ子「朝から、疲れる話をするんだね。で、もうアルミニウムの話は終わり?」
kaztec「今日は朝から話にエキサイトしちゃったから、僕も疲れた。アルミニウムは
アルミ箔、アルミサッシ、アルミ缶なんかにも使われるし、明礬(みょうばん)の成分
だし、あ、そうそう、胃薬にもなるんだ。水酸化アルミニウムを使うんだよ。」
シロ子「へえ。薬にもなるんだ。」
kaztec「でもね、アルミニウムは痴呆症の原因じゃないかとも言われているんだよ。
アルミニウムイオンは3価の鉄イオンと良く似た性質なんで、鉄の輸送タンパク質の
トランスフェリンと反応しやすいんだ。間違うんだね。アルミニウムがたくさん入ると
鉄の身体の中の新陳代謝経路に乗って骨や筋肉まで届き、そこで定着してしまうんだ。
そうすると、骨が脆くなったり、筋肉が萎縮したり、脳に蓄積すると脳細胞が萎縮して
しまうんだ。アルツハイマー痴呆症はこういうことかもしれないと言われているんだよ。」
シロ子「なんだか怖いわね。アルミ鍋は使っちゃいけないの。」
kaztec「アルミニウムイオンが怖いだけだよ。金属は大丈夫だと思うよ。いちいち心配
していたらきりがないよね。別にアルミニウムだけでなく、いろんな物質が身体に影響を
与えるよ。人間の身体にとって一番の毒って知ってる?」
シロ子「知らないよ。」
kaztec「酸素だよ。人間の身体は、できるだけ酸素から身を守るような構造になっている
んだよ。皮膚で覆って、いきなり身体の細胞が酸化しないようにしているんだ。」
シロ子「なんだか、屁理屈ね。話を聞いていたらバカバカしくなってきた。」
kaztec「屁理屈って知っている?屁でも・・・。ちょっと待てよ、話はまだ終わって・・・。」
フェードアウト。


【カリウム】原子番号14、原子量39.098、融点63.7℃、比重0.862

カリウムの英語名は、デービーによりpotash(草木灰)+iumとして
作られた。potashはpot(壺)+ash(灰)の合成語であるが、
草木を焼いた灰をつぼの中にたくわえた中身をさすようになった。(中略)
カリウムの発見以降、新たに見出された金属元素の名称は、語尾をiumと
する習慣が定着した。
(桜井弘編『元素111の新知識 引いて重宝、読んでおもしろい』より)

シロ子「『英語でポタシウムと言う』って言うと何だか物知りのような表現だけど、
じゃあ、カリウムって何語なのよ。ストレートに『カリウムは・・』って言った方
が素直じゃない。」
kaztec「朝から、つっかかるよね。何かあった?」
シロ子「だって、休みだというのに5時から起きてお弁当を作ってるのよ。
休日に部活は止めてほしいわ。それに、明日は東京でフルマラソンを走るのに
雨だって。合羽(カッパ)着て走る?」
kaztec「そうか。今日、雨なんで機嫌が悪いのか。で、さっきのカリウムだけど、
シロ子さんが不満を言っている間に調べてみたんだが、記憶に間違いなかったよ。」
シロ子「何言ってんの?」
kaztec「いやね、カリウムは、Kaliumってドイツ語なんだけど、確か、ラテン語
のKaliumから来ているはずだと思って、ラテン語の翻訳ソフトで変換して
みたんだけどKaliumで出てきたよ。その昔、アラビア語のqali(カリ)が
語源なんだ。いずれにしても、みんな灰からきてるんだよ。このqaliは、あの
アルカリのカリだよ。」
シロ子「なんだかわかったような、わからないような。要は昔からあったのね。」
kaztec「そうそう。旧約聖書の昔から、洗濯物の洗剤代わりに、草木を焼いた灰を
水に溶かして使っていたんだよ。」
シロ子「カリウムって、洗剤しか使い道ないの。」
kaztec「カリウムは、植物の中にもたっぷり入っているけど、動物にとっても
大切な元素なんだよ。大体僕の身体で160グラム位含まれているんだ。」
シロ子「どういう計算なの。身体の中のカリウムなんて測ったことあるの。」
kaztec「あるわけないだろ。70キロの人で140グラム位含まれているんだよ。」
シロ子「という事は、お父さんの今の体重は・・・。今月、身体検査でしょ。
体重増えているんじゃないの。」
kaztec「そんな事いいから。話を戻すと、人間の身体の中には、ナトリウムよりも
カリウムがたくさん含まれているんだよ。」
シロ子「カリウムってどんな役割があるの。」
kaztec「色々あるけど、大きな役割は、細胞の膜を通った水のやり取りはカリウムと
カルシウムの濃度差でやっているんだ。それにタンパク質の合成。」
シロ子「カリウムをたくさん摂ると、走っているときに疲れないのかな。」
kaztec「摂りすぎると身体に悪いんだよ。過剰なカリウムは腎臓で漉しとられて
おしっこに混じって排出されるんだ。カリウムは利尿作用があるんだ。これが多いと
尿毒症になったり腎不全になるらしいよ。」
シロ子「なんだか、以前聞いたリチウムと同じで、怖いわね。身体の中にたくさん
入ると病気になるのね。」
kaztec「でもね。カリウムって点滴用の生理食塩水に入っているよ。それと、カリウムの
人工放射性同位体のK43は、半減期は22時間程度と短く、ベータ線とガンマ線を
放射するので、心筋の機能検査用に用いられているよ。」
シロ子「病院ばっかりね。他には使い道はあるの。」
kaztec「以前、ナトリウムで話したように、高速増殖炉の冷却材として同じように使う
ケースがあるんだ。。それに、硝酸カリウムは、マッチとか花火など、酸素源が必要な
ものに混ぜて使うんだ。」
シロ子「ふうん。色々あるんだね。」
kaztec「まだまだあるよ。例えば塩化カリウムは、人工降雨の種につかうし、肥料の
三大栄養素として肥料には入れるし、非常用の酸素発生剤としても使われるんだ。」
シロ子「カリウムが酸素を発生させるの?」
kaztec「そりゃあムリだ。KO2という化学式の超酸化物、スーパーオキシドを作って
これから酸素を出すんだ。KO2が二酸化炭素と反応して酸素を出すんだよ。」
シロ子「それって、ひょっとしたら活性酸素のこと?」
kaztec「活性酸素を出す元だよ。」
シロ子「活性酸素は身体に悪いんでしょ。」
kaztec「有機化合物と激しく反応して、その分子の中に酸素を送り込むからね。細胞なんか
は壊れてしまうかもしれないね。」
シロ子「活性酸素を出す物質ってたくさんあるの。」
kaztec「活性酸素種には色々あるよ。過酸化水素だろ、スーパーオキシドアニオンラジカル、
ヒドロキシルラジカル、資質ラジカル、過酸化資質とそのラジカル、一酸化窒素ラジカル
その他もろもろだよ。あの、魚や肉のの焦げたところは身体に悪い、っていうのもこの
資質ラジカルが身体の中に入って悪さをするんだ。まあ、老化を早めているんだな。」
シロ子「老化って、酸素が身体の中に取り込まれていくことなの?」
kaztec「そればかりじゃないが、『身体が錆びる』って表現は、結構正確だと思うよ。」
シロ子「走ると、酸素をたくさん消費するから老化を促進するのか。考えちゃうな。」
kaztec「別にそんなこと気にしても老化は止められないよ。」
シロ子「そうね。あと30年もしたらおばあさんだもんね。」
kaztec「おばあさんになるのに30年もかかるのか。」
シロ子「なんか言った?」
kaztec「べつに。さあ、今日はもうこれくらいで終わろう。」


【カルシウム】原子番号19、原子量40.08、融点838℃、比重1.55

カルシウムを含む最も代表的な化合物は大理石、方解石あるいは石灰石の
主成分である炭酸カルシウムであり、これは古代ローマ時代からカルックス
の名前で知られていた。この炭酸カルシウムを焼くと石灰となるために
これが単体と考えられていた。(中略)カルシウムは、デービーにより
命名された。ラテン語の石ころや砂利をあらわす言葉としてのCALXから
転じて石灰石や石灰を指すよう変化した言葉CALCISに、金属元素共通の
IUMを結合させ、CALCIUMとした。
(桜井弘編『元素111の新知識 引いて重宝、読んでおもしろい』より)


シロ子「カルシウムは知っているよ。骨とか体とかを作る物質でしょ。昨日の
ようなフルマラソンを走った後は、カルシウムをたくさん摂らないと疲労骨折
しちゃうよ。」
kaztec「そうだね。人間の身体の骨格はカルシウムから出来ているんだ。一人
1キロくらいあるんだよ。骨を作る以外にも、生体膜を構成したり筋肉の刺激や
収縮に関係したりするので、生物には不可欠の物質なんだよ。」
kaztec「おとうさんの書く文章によく、デービーさんがでてくるんだけど、
どういう人なの。なんか、軽い金属はみんなこの人が発見しているような気が
するんだけど。」
kaztec「デービー?デービーさんね。最近、読み直した本にシュエンチェンガア
の『小説金属』っていうのがあるんだけど、そこに生き生きとこのデービーさん
が登場人物としてでてくるな。。」
シロ子「『小説金属』?なんだかつまらなそうなおはなしね。。」
kaztec「そんなことはないよ。ものすごく面白いだから。で、デービーって
イギリスのロイヤル・インスティチュートの若きメンバーとして出て来るんだよ。」
シロ子「王立科学会議だっけ。」
kaztec「そんなもんかな。デービーは、当時発明されていたボルタ電池に興味が
あり、ナポレオンの招聘でフランスでボルタが電池の公開実験兼講演会をするを
見に行くんだよ。そこで、ボルタの間違いに気付き、イギリスに帰ってしまうんだ。
悶々とするデービー、そこへドイツの若き逸材リッターから一通の手紙が来て、
彼は真実に目覚めるんだ。と、これが小説金属の銀の章の一部なんだよ。」
シロ子「今日は、全然カルシウムの話をしないの。」
kaztec「デービーはリッターの死後、電池による化学元素の分離の研究を始め、
次々と発見するんだよ。後はその後、電気化学の分野で大成功を収め、ナポレオン賞
はとるはイギリスのロイヤル・ソサイエティの会長になるはの幸せな人生を歩む
のさ。」
シロ子「若いリッターがいきなり死んじゃったけど。」
kaztec「リッター?リッターは、ナポレオン軍に捕らえられた愛する美少女ルイーゼ
を救おうと単身フランス軍に乗り込み、拘束され餓死してしまうんだ。」
シロ子「なんだか朝から殺伐とした取り留めのない話ね。」
kaztec「だって、今日はちょっと身体がいう事を聞かないんだよ。」
シロ子「カルシウムでも舐めてたら。」

【スカンジウム】原子記号Sc、原子番号21、原子量44.96、融点1541℃、比重2.99

1879年、スウェーデンのニルソンは、スウェーデン産のガドリン石とユークシナイト
の中から新しい金属の酸化物を発見した。この元素の存在は1871年にメンデレーエフ
によって予言されていた。すなわち、彼は、自分の作った周期律表にもとづいて、ホウ素
の周期にそれと「一様に類似したもの」(サンスクリット語でeka「エーカ」、これは
「1」という意味であるが、「一様のラテン語のaquusとekaは共通、英語の
equal」とか「類似した」と共通の意味からきている)としているはずの元素
(未発見)をかりに「エカ・ホウ素」と名づけていたが、そこに予言どおりスカンジウム
が当てはまったのである。
(大槻真一郎編著『記号・図説 錬金術事典』1996年 同学社)


シロ子「ガドリン石ってなんなの?」
kaztec「ガドリン石?これはね、フィンランドの化学者ガドリンが、スウェーデンの小さな
町イッテルビーで不思議な鉱石を発見し、これからイットリウムを発見するんだ。その鉱石
を発見者の名前からガドリン石と呼ぶようになったんだよ。この人の鉱石、いや功績を
称えて、のちに重希土類にガドリニウムという元素名が加えられるんだよ。」
シロ子「スカンジウムってなんだか地名みたいね。」
kaztec「そうさ、スウェーデンのラテン語名のスカンジアから取った名前なんだ。」
シロ子「で、この元素がメンデレーエフちゃんの予言にぴったり当たるのね。メンちゃんって
占い師だったの。」
kaztec「メンちゃん?メンデレーエフの凄いところは、当時知られていた63種類の元素を
原子量順にならべ、酸化物や塩化物の組成比が周期的に変わる法則を見出したんだ。これを、
周期的に並べたのが有名な周期律表なんだよ。それで、その周期律表に空欄がいくつもあり、
『ここにも元素があるはずだ』と予言したんだ。何もあても無いところから元素を探すより
ずっと効率的に探すことができたんだよ。」
シロ子「へえ、メンちゃん、一躍有名人ね。」
kaztec「そうでもないんだよ。1869年に発表したんだけど、誰も信じていなかったんだ。
ところが、1875年にガリウム、1886年にゲルマニウムが発見されて信じられだした
んだよ。このスカンジウムもそのひとつの証明になったんだよ。」
シロ子「すごい発見も最初は、不遇だったんだね。」
kaztec「まあ、いまでは科学や物理の基礎になっている大発見だったんだけどね。」
シロ子「ところで、スカンジウムってあんまり聞かないけど何に使うの?」
kaztec「用途か。これは高いからなあ。1キロで約1千万円するからな。金でも100万円
程度だから十倍の値段なんだ。鉄なんか、1キロ100円もしないんだけどね。」
シロ子「鉄ってひどく安いんだね。」
kaztec「まあ、量をたくさんつくるかたな。で、用途なんだけど、アウトドアスポーツの照明
に使われたり、ニッケルアルカリ電池の電圧安定用に陽極に混ぜたりするんだ。」
シロ子「余り使い道が無いってこと?」
kaztec「それに、硫酸スカンジウムの水溶液をとうもろこしの種子に掛けると、発芽促進を
するって言われているんだ。理由はわからないけどね。」
シロ子「要は、あんまり使い道が無いってことね。」
kaztec「高いからな。」
シロ子「安けりゃ使い道があるの。」
kaztec「そりゃそうさ。少々、性能が悪くても、重くても、鉄のように安けりゃみんな使うんだ。
鉄も、『その性質で優れた点を売り込み・・』なんて言っていたらだけも使わないよ。」
シロ子「まあ、メンちゃんの予言に免じて、今日は追及を止めておいてあげるよ。
はやく会社に行ったら?」
kaztec「今日も、遅くなってしまった。やばい、朝ごはんを食べる暇がない。」
シロ子「ダイエットにちょうどいいんじゃない。」

【チタン(チタニウム)】原子記号Ti、原子番号22、原子量47.88、融点1725℃、比重4.54

銀白色の金属元素。軽くて強い合金の製造にもちいられる。1791年、イギリスの牧師
ウィリアム・グレガーがメナカン産の鉱物中に発見し、この新元素をメナカイトと名づけた。
4年後にドイツの化学者マルティン・クラプロートが鉱物ルチル中に同じ元素を発見し、
ギリシャ神話の巨人ティタンにちなんでチタンと名づけた。1910年、はじめて金属の
かたちでとりだされた。
(『エンカルタ総合大百科2005』2005年 マイクロソフト社)


シロ子「イギリスのグレガーさんが見つけたのは何だったの?」
kaztec「彼は、鉱物マニアの牧師さんだったんだよ。自分の教区のメナカン谷でみつけた
真っ黒な磁性鉱物、実はチタン鉄鉱から未知の酸化チタンを見つけ、これを新元素と勘違い
メナカイトと名前をつけるんだ。」
シロ子「なんで勘違いしたのかしら。」
kaztec「それはわからないよ。でも、チタン鉄鉱を硫酸で処理し、それを水酸化チタンの
形にし、焼くと酸化チタンになるんだ。これがチタン白というシロ子さんもびっくりの
真っ白なんで、『こいつはすごい元素をみつけたぞ』って舞い上がっちゃったのかも
しれないね。」
シロ子「酸化チタンって白いの?」
kaztec「顔料として使われるものの中で一番だよ。亜鉛華は酸化亜鉛、これは無毒でしかも
お肌を引き締めるというのでおしろいに使っているよ。鉛白も昔から使われているけど、
これは有毒だ。でも、鉛に酢酸の蒸気と二酸化炭素を作用させただけで簡単に作れるので
塗料なんかには使われてきたんだ。おしろいに使った人は鉛中毒になったりしたんだ。
それに、酸化チタンのチタン白、これは無毒だし、紫外線もカットするし、顔のしみも
隠すし、化粧品に使われるチャンピオンかな。」
シロ子「よくまあ、それだけオタク的な話を朝からできるよね。で、何が言いたいの。」
kaztec「酸化チタンは白いこと。」
シロ子「チタンってときどき聞くけど、どっかの星の名前じゃなかったっけ。」
kaztec「土星の第6衛星、タイタンだよ。銀河鉄道999にもでてきたね。ほら、鉄郎が
山賊にさらわれたメーテルを救いに行く星だよ。ここで、戦士の銃と帽子を手に入れる
んだ。よかったなあ、あの頃みた映画。3回も見に行ってしまった。」
シロ子「なんの話?漫画?そんなの読んだ事ないよ。」
kaztec「そうかなあ、面白かったんだけど。で、なんだっけ、タイタンの話か。タイタンは
ボイジャー1号が近くまで行って観察したら、窒素の大気がある唯一の衛星だってわかった
んだ。それで有名なんだな、これが。」
シロ子「また時間がなくなるから、話は手短にね。星の名前以外に使い道は無いの。」
kaztec「鉄に比べて軽くて、アルミより硬くて、腐食されにくい性質を持っているんだ。」
シロ子「また判り難いことをしゃべったね。要は、軽くて強度があって耐食性に優れている
っていうことを言いたいの。」
kaztec「すごい、シロ子さんは金属の先生になれるぞ。アルミニウムやバナジウムとの合金
は飛行機の骨材やジェットエンジンに使われるし、ミサイルとか宇宙船なんかも、チタン製
のものが多いんだ。」
シロ子「宇宙関係が多いけど、なんだか難しそう。」
kaztec「チタンってからだには無害で、反応もしないんだ。それで、骨とか軟骨の代替品に
使われているんだよ。歯の治療で、人工的に土台を作るとき、これをインプラントっていう
んだけど、チタンを使うんだよ。」
シロ子「さすが、歯抜けになって、治療中のおとうさん、やたら詳しいね。いつ前歯を入れるの?」
kaztec「あと数回かかるって歯医者が言ってたな。チタンの土台を次回から作るんだって。」
シロ子「入れ歯以外に用途はあるの。」
kaztec「光触媒が有名だよ。」
シロ子「何それ?」
kaztec「酸化チタンを水の中に入れて、光を当てると水が分解されて水素と酸素になるんだ。」
シロ子「それってすごいじゃない。」
kaztec「まだ実用化にはなってないようだけどね。でもね、この触媒作用は、有機物を分解する
ので、殺菌作用があるんだ。それで最近は『抗菌なんとか』として売り出し中なんだ。抗菌
タイルとか便器とか外壁とかだね。それに、有機被膜が付かないんで、水滴が付きにくくなる
性質を利用して曇らない鏡とかバックミラーとしても売っているね。これらは表面に酸化チタン
を塗ってるんだよ。」
シロ子「もう時間がだいぶ遅いけど、他に言いたい事は?」
kaztec「そうだな。チタン・ニッケル系の合金、ニチノールが有名かな。」
シロ子「なんなの、それ。」
kaztec「知らない?形状記憶ブラで有名になった形状記憶合金だよ。」
シロ子「チタンが形状を記憶するの?」
kaztec「そうじゃないよ。話せば長いけど、手短にいうと、ゴムのように変形させる力がなくなる
と元の形に戻る擬弾性と、変形させてもちょっと熱を加えると元に戻る熱弾性があるんだけど、
ブラは擬弾性を使っているんだな。」
シロ子「おとうさんにお腹は、いくら絞っても、すぐに元の太さに戻るんだけど、そういうのは
何ていうの。」
kaztec「腹弾性?ダイエット弾性?元の形を身体が覚えているんだから、いくら変形させても
ムダだよ。」
シロ子「私が熱を加えると、ぎゅっと元の小さなサイズになるチタン合金の形状記憶ベルトか
腹巻きを作ってくれないかね。ウエスト70センチくらいのをおとうさんに嵌めてみたいな。」
kaztec「胴体輪切り状態になっちゃうよ。ボンレスハムみたいなお腹を見たい?」

【バナジウム】原子記号V、原子番号23、原子量50.94、融点1887℃、比重6.11

バナジウムは、メキシコの鉱物学者デル・リオにより1801年に発見された
と思われていたが、後にそれはクロムと間違っていることがわかった。1830年
に再発見したスウェーデンの化学者セブストレームにより、スカンジナビアの神話
にでてくる美の女神バナジスにちなんでバナジウムと名づけられた。金属バナジウム
の単離はむずかしく、1865年に、イギリスの化学者ロスコーが初めて塩化物を
水素で還元してつくった。バナジウムは地殻中に160ppm程度あり、遷移元素
としては5番目に多い金属である。バナジウムをふくむ鉱石は世界中に広く分布する。
そのうち、バナジウムとウランを含むカルノー鉱とロスコーライトが最も重要である。
(桜井弘編『元素111の新知識 引いて重宝、読んでおもしろい』より)


シロ子「美の女神バナジスって、ビーナスのこと?」
kaztec「いや、ビーナスって、ローマの女神Venus(ウェヌス)の英語読み
なんだ。北欧の女神Vanadis(バナディス)とは関係ないと思うよ。
バナジスって、北欧の神話のフレイアの別名なんだ。こちらの名前の方が有名
だよ。」
シロ子「北欧の神話ってなんだかロマンチックな感じがするね。」
kaztec「まあ、キリスト教が布教されるまえの神話だからね。キリスト教以前は
どこでも多神教で、たくさん神様がいて、結構楽しい話が多いんだ。布教以後は
苦しそうな顔をした神さんが一人だけになっちゃったけど。北欧神話で有名なのは
ワーグナーもオペラ化している指輪物語なんかの世界なんだ。」
シロ子「オペラの話になると俄然元気になるね。今日はバナジウムの話じゃなかった
の。で、何に使われているの。」
kaztec(せっかくオペラ談義に持ち込んだつもりがはぐらかされて)「なんだって?
バナジウムがどうしたの。」
シロ子「バナジウムの話をしたいんでしょ。それともバナジスさんの話?」
kaztec「元素の話より女神さんの話の方が面白いんだけど。じゃあ、始めるよ。
バナジウムは、鋼の中に入ると硬くするんだ。これは、酸化バナジウムが生成する
ためと考えられているんだよ。昔の日本刀も、バナジウムをふくむ砂鉄を使って
硬くしていたんだよ。それに、バナジウムとチタンの合金は軽くて、強くて、
腐食しにくいんで、航空機材料として使われているんでよ。また、ガリウムとの
合金V3Gaって、現在存在する最も硬い超伝導物質なんだ。」
シロ子「あんまり、べらべらしゃべられても、わからないよ。要は、大切な元素
だって言いたいの?」
kaztec「そうだよ。なかでも一番大切な用途は、硫酸を作る酸化触媒として使われる
酸化バナジウムとメタバナジン酸アンモニウムなんだ。これは、硫酸以外にもいろんな
化学薬品の触媒としてなくてはならないものなんだ。」
シロ子「へえ、そんなに大切な元素の割にはあんまり日頃、聞かないよね。」
kaztec「そうかなあ。そうれと、そうそう、バナジウムは、糖尿病に効くかも
しれないといわれているんだ。硫酸バナジル(VOSO4)は、インシュリンの
代わりに血糖値を正常に戻す役割があるのは明らかになってきたんだ。」
シロ子「なんにでも効くんだね。そういうのはインシュリンでいいのじゃ。」
kaztec「バナジウムは、身体には毒性は低いんだ。人間の身体のなかにはバナジウム
はあんまり入っていないんだよ。大体バナジウムを利用している生物って限られていて
古代の一時期しか使われていなかったようなんだ。原油中とか泥炭のは含まれるので
昔はこれをたくさん含んだ動植物がいたんだろうね。」
シロ子「だんだん、会社に行く時間が近づいてきたよ。」
kaztec「あ、本当だ。今日は早朝から会議だったんだ。じゃあ、今日はこれまで。」
シロ子「唐突ね。」

【クロム】原子記号Cr、原子番号24、原子量51.996、融点1857℃、比重7.19

「電気的にクロム鍍金の行なはれるやうになつたのは僅々十数年この方のことに属する。
その鍍金液としては通例少量の硫酸塩を含むクロム酸溶液である。クロム鍍金は硬度が
高く且青白色の光輝を出すから、自動車には最も廣く利用される。磨耗に耐へることと
耐蝕性の強いことによる。工具、ダイス、パンチ、ゲーヂ、その他多くの器械類の寿命
を長くするためにクロム鍍金が施される。化学工業、特に写真及び製紙工業にも用途が
多い。」
(加瀬勉「金属の効用」昭和18年)


シロ子「クロム鍍金って、ピカピカ光る金属に良く使われているよね。」
kaztec「そうだね。鍍金が剥がれるの鍍金は、ほとんどがクロム鍍金なんだ。」
シロ子「でも、クロムって、なんだか怖かったんじゃなかったっけ。以前新聞にも出てたよ。」
kaztec「六価クロムのことだろ。」
シロ子「そうそう、なんだか黄色い液体がクロムから溶け出してきて・・・。」
kaztec「六価クロムのイオンが人体に悪影響を与えるんだ。」
シロ子「へえ、そうなんだ。じゃあクロムは怖いの。」
kaztec「いや、クロムはここで書かれているように、色々な用途や産業で使われているんだよ。」
シロ子「六価クロムがなぜ体に悪いの。」
kaztec「クロムって革のなめしに使われるって知ってる?」
シロ子「なめし?革を軟らかくすることね。」
kaztec「そうだよ。六価のクロムイオンは、皮膚や細胞に付くと、そのたんぱく質のチオール基
(-SH)と反応して酸化還元反応が起こるんだ。クロムイオンは六価から三価に還元され、
たんぱく質側は酸化されるんだ。そうすると、チオールイオンが水素が取れてジスルフィド
(-S-S-)基に変成されるんだ。そうすると、たんぱく質の構造が変わり軟らかくなるんだ。」
シロ子「体が柔らかくなったらいいわね。」
kaztec「そういう問題じゃないんだ。たんぱく質の異物ができてしまうんだよ。だから、生きて
いるものは、それがガン化したりかさぶたになったりするんだ。」
シロ子「じゃあ、やっぱり怖いの。」
kaztec「そうじゃないよ。こういう反応をするものだ、と正確に理解したうえで、使えば
非常に有用な金属なんだ。第一、クロムが怖いといってると、ステンレスも使えなくなるよ。」
シロ子「ステンレスは問題ないの。」
kaztec「当たり前だよ。金属や合金の状態では何にも問題はない。怖いのは、酸化物のような
形で使われるものの廃材などなんだよ。」
シロ子「じゃあ、あんまり怖がらなくてもいいのね。」
kaztec「日常生活では怖がらなくてもいいよ。」
シロ子「でも酸化物は怖いのね。クロムの酸化物なんて嫌いよ。」
kaztec「そう、好きにならない方がいいね。だって、クロムの酸化物って、エメラルドって
呼ばれて、こんな石ころを好きになられると、旦那はたまったもんじゃないよ。」
シロ子「ちょっとまった。」
kaztec「待たないよ。もう会社の時間だよ。」
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シロ子「おとうさん、エメラルドってクロムの酸化物っていってたけど、あれは。」
kaztec「うん、間違いだった。」
シロ子「なんだ、そうか。」
kaztec「クロムは、アルミナコランダムとかアルミとベリリウムの酸化物に混ざって
いるだけだった。」
シロ子「それじゃあ、たいしたことないよね。」
kaztec「うん、真紅のルビーとかエメラルドって呼ばれるだけだよ。」
シロ子「やっぱり、宝石じゃない。」
kaztec「でも、クロムの酸化物じゃないよ。クロムは、いろんな色を発色するんで
有名な元素なんだ。そもそも名前が、ギリシャ語の色を示す言葉クロマからきて
いるんだよ。」
シロ子「クロムって、有害だったり宝石だったり忙しい元素ね。」
kaztec「そうさ、クロムメッキがなければ機械部品は錆びてしまうし、ステンレスも
クロムがたくさん入っているし、そうそう、ニクロム線って知ってるだろ、あれも
クロムとニッケルの合金なんだよ。用途はものすごく広いすばらしい金属なんだ。
付き合い方が大切なんだよ。」
シロ子「ちょっとあぶないけど面白いお兄さんのような金属ね。」
kaztec「なんだい、それ。」
シロ子「いえ、こっちの話。」

【マンガン】原子記号Mn、原子番号25、原子量54.94、融点1244℃、比重7.44

マンガンをふくむ鉱石、軟マンガン鉱は、ガラスの不純物による着色をけすために
古くから利用されていたが、元素としてのマンガンの存在は知られていなかった。
1774年、スウェーデンの化学者カール・W.シェーレが、軟マンガン鉱に未知の元素
がふくまれることを予測し、同年シェーレの弟子のヨハン・G.ガーンによって、
鉱石からはじめて分離された。呼び名の由来にはいくつかの説があるが、そのひとつ
に、鉄鉱石とともに産出するため磁性があるとあやまって考えられ、磁石を意味する
ラテン語magnesから元素名がつけられた、というものがある。
(『エンカルタ総合大百科2005』2005年 マイクロソフト社)


シロ子「マンガンって、どこかで聞いたことがあるね。そうそう、電池でそんな
電池無かったっけ?」
kaztec「マンガン乾電池のことかい。シロ子さんは、電池と乾電池の違いは知っている?」
シロ子「また馬鹿にした。知っているよ。以前ゲームボーイをTやHが夢中でやって
いた時、家中に溢れていたあの丸っこい、すぐに使えなくなる電池のことでしょう。」
kaztec「そうそう。あの『すぐに使えなくなる電池』っていうのが一次電池というんだ。
一度放電してしまうと充電が効かない電池の代表格がこのマンガン乾電池なんだ。
充電できる電池を二次電池と呼ぶんだ。ニッケルカドミウム電池(ニッカド電池)とか
だよ。まあ、充電すると再利用できるから便利だよね。一次電池の仲間には、リチウム
イオン乾電池なんかもあってニッカドの数倍の電圧を取り出せる優れものだよ。」
シロ子「マンガン乾電池の話から段々離れていくような気がするけど。」
kaztec「そうそう、乾電池の話をしていたんだっけ。マンガン乾電池って大昔、解体した
ことがあるけど、真ん中に炭素の棒が入っていて、その廻りにねばっこい黒い粉末が入って
いるんだ。これが二酸化マンガンと炭素の粉なんだ。粉をでんぷんで固めてゲル状にした
ものが入っているんだ。塩化アンモニウムとか塩化亜鉛の電解液を固めるためにね。そして
周囲は金属の容器に入っていて、これが亜鉛なんだよ。こんな複雑な構造をしていて、
振っても液が漏れない電池、乾いた電池、乾電池と名づけられたんだよ。」
シロ子「またよくしべったね。で、乾電池の反対ってなに。」
kaztec「湿電池だよ。例えば、マンガン電池は湿式のままで構成するとルクランシェ電池
と呼ばれるんだ。それにね、ついでに言っとくと、電解質が中性からアルカリに替えると
アルカリマンガン乾電池、マンガンの代わりにマグネシウムを使うとマグネシウム乾電池、
亜鉛と空気で電池を構成すると補聴器なんかに使う空気亜鉛電池、略称、空気乾電池
なんかが一次電池の仲間なんだ。色々あるだろ。」
シロ子「おとうさん、ひょっとして電池マニア?ちょっと、オタクっぽいよ。あんまり
外でそんな話をしない方がいいかと思う。」
kaztec「そうかな。それをいうなら金属フェチ?」
シロ子「なんだか、ちょっといやらしい響きね。その言い方は止めといた方がいいよ。」
kaztec「話を続けるよ。マンガンってあんまり単独では使わないけど、組み合わせで
使うとものすごい力を発揮するんだ。鉄鋼の世界ではマンガンは必須元素なんだよ。
炭素、珪素と合わせてマンガンが鉄の5元素と呼ばれているんだ。」
シロ子「後の二つは何?」
kaztec「リンと硫黄だよ。これは、不純物として鉄鋼を脆くしてしまう性質があるんで
毛嫌いされる側に元素なんだ。後の3つは強さを決める重要成分なんだ。マンガンが
たっぷり入っていると非常に強くて粘い鋼になるんだ。」
シロ子「知ってるよ。うちの包丁に『マンガンスチール』って書いてある。」
kaztec「そうだよ。それでね、鉄鋼業ではマンガンをたくさん使うんだけど、溶けた鉄に
マンガンを直接入れるんじゃなくて、鉄とマンガンの合金、フェロマンガンで入れるんだ。」
シロ子「わざわざ合金を作ってからそれを鉄に放り込むの?」
kaztec「そうだよ。まあ、フェロマンガンは軟マンガン鉱と鉄鉱石と炭素を溶鉱炉にいれて
熱処理すると、溶けた鉄とマンガンの合金の形で得られるんだ。これを固めると簡単に
作れるんだよ。」
シロ子「そんなまどろこしいことしなくても、二酸化マンガンを溶けた鉄に入れれば?」
kaztec「なるほど、それは良いことに気付いたね。・・・ちょっと待って(しばし調査計算
タイム)ああ、それは駄目だ。いやちょっと待てよ。アルミ脱酸後なら。」
シロ子「ちょっと何してるの。そんな訳のわからない図面を見せられても。」
kaztec「いや、エリンガムダイアグラムを見ていたんだ。まずね、二酸化マンガンを溶けた
鉄に放り込んだとするだろ。標準生成自由エネルギーを計算すると、マンガンは鉄の下。
<MnO>+[Fe]→[Mn]+FeOの反応は自由エネルギーがプラスになるから起こらない。
だから、溶鋼中では溶けない。しかし、アルミ脱酸した後は、アルミとの勝負になるから
3<MnO>+2[Al]→3[Mn]+Al2O3は進行するな。でも、とんでもなくアルミナ
が生成しちゃうからこれも現実解ではないと・・・。」
シロ子「ちょっと、ちょっと。完全にオタクの世界に入っているよ。」
kaztec「あ、ここは食卓か。まだ、会社に行ってなかったんだ。」
シロ子「ここまでくるとオタクとかフェチじゃなくて、病気ね。」


【鉄】原子記号Fe、原子番号26、原子量55.85、融点1535℃、比重7.874

古代七金属の一つ。紀元前7世紀のギリシャの詩人ヘシオドスによって
うたわれた鉄の時代は、金→銀→青銅→鉄と下っていく物欲・権力欲・
悪徳・殺戮の横行する末世、つまりヘシオドスの生きた時代である。
しかしこの鉄器の時代は、いわば、現代まで続いているといってもよい。
(中略)さて、「鉄」を表すラテン語ferumをfirmus(堅牢な→<英>firm)、
から説く向きもあるが、これは疑わしい。ただ英語、ドイツ語のそれぞれ
iron、Eisenを考えてみると、これはおそらくラテン語のaes(鉱石、金属、
銅など、語幹はaer-)にも、サンスクリット語の同系意味のayasにも関連
する言葉と思われる。英語のゴート語でaizといえば「銅」であったことを
考え、また「金」を意味するラテン語のaurumや光るオーロラも同じ範疇
であることを考え合わせるとき、単なる石とはちがった「明るい輝きを
もつ鉱石」に寄せる古代人の言葉の意味がうかがえるであろう。特に
「赤々と燃えるように熱くなって鍛えられる鉄」には、火星とローマの
軍神マルスの記号♂が結びついた。起源2世紀の文献にはよくでてくる
ものである。○は盾、→は槍、いずれも軍神マルスのシンボルである。
(大槻真一郎編著『記号・図説 錬金術事典』1996年 同学社)


シロ子「鉄はお父さんのお仕事でしょ。なんでも知っているんでしょ。」
kaztec「そんなことないよ。全然知らない事だらけなんだよ。」
シロ子「でも、『鉄はライフワークだ』とか『鉄ほど面白いものはない』
なんて、あちらこちらで書き散らかしているし、講演して廻ってるよね。」
kaztec「知らないから、毎日が面白いんだ。毎日、新しい発見があるんだよ。」
シロ子「でも、もう会社に勤めてものすごく経っているよね。」
kaztec「でもね、お仕事でも、毎日、知らないことが次々でてくるんだよ。
『たまには、知っていることを聞いてくれ』と周囲にお願いしているくらい
知らないことが起こるんだ。」
シロ子「鉄に関しては、色々な本がでているよね。今日はどんな話をするの。」
kaztec「元素の語源、総まくりだよ。鉄は、ここででているような語源なんだけど
これは、聖なる天上の星と関係しているんだよ。まず、古代の7つの金属は、
天動説により錬金術の世界で位置づけられているんだ。地上から天上には、  
地球(土=地球、水、空気、火)→月(銀)→水星(水銀)→金星(銅)
→太陽(黄金)→火星(鉄)→木星(錫)→土星(鉛)
の順番に金属をシンボルとした星々が廻っていると考えるんだよ。」
シロ子「なんだか、ひどく順番が違っているように思えるんだけど。金属って
星に因んで、名前が付けられているの?」
kaztec「いや、神話や色、その他様々な名前から取られているんだ。例えば
神話は、チタン、バナジウム、ニオブ、プロメチウム、タンタル、トリウム
なんかがそうなんだ。」
シロ子「へえ。どこから取られているの。」
kaztec「主にギリシャ神話からさ。まず、チタンは、タイタン(ティータン)と
いう巨神族で、天空神ウラノスと大地母神ガイアの子供なんだ。彼らは、古い
神族で、新興のオリンポス神族と戦って破れ、地下深く幽閉されてしまうんだ。」
シロ子「なんだか、おたくね。」
kaztec「次に、タンタルは、ゼウスの子タンタロスから来ているんだ。タンタロス
は父親ゼウスの秘密を漏らした罪で、地獄で永遠の飢えと渇きに苦しめられる神
なんだ。ニオブは、タンタロスの娘のニオベーだ。彼女は、7人の男の子と7人の
女の子の母親だったんだが、ある日、アポロンとアルテミスには子供がいないと
見下げたため、子供を皆殺しにされ、悲しみのあまり石になってしまうんだ。」
シロ子「人を見下げてはいけないわ。でも、ギリシャ神話ってものすごいね。」
kaztec「プロメチウムは、ランタノイド系のネオジウム、プラセオジウムに次ぐ
元素なんだけど、原子力の核分裂の生成物から見つかった質量147の放射性
物質だよ。天上の火を盗んだプロメテウスに因み名づけられたんだよ。」
シロ子「だんだん、出社時間が近づいてきたよ。あとは、簡単にね。」
kaztec「そうか、一週間ぶりの出社だから、早めにいかなくっちゃね。
最後に、バナジウムは、北欧の愛と実りの女神バナジス、トリウムは、やはり
北欧の男の雷神トールから来ているんだ。」
シロ子「今日は、鉄の話じゃなかったの。」
kaztec「本当だ。いつの間にか、神話の神様の話をしていた。でも、今日は
ここまで。」
シロ子「やっと話が終わったね。もう7時よ。朝ごはんは食べてからいく?」


【コバルト】原子記号Co、原子番号27、原子量58.93、融点1495℃、比重8.900

貧血を防ぐには、食事に適量の鉄が含まれているときでさえ、少量のコバルト
が必要であることが明らかにされ、1948年のビタミンB12の発見へと
つながった。1961年にはX線構造解析により、ビタミンB12の三次元
構造が明らかにされ、1973年には全合成が完了した。
 コバルトはヒトをはじめあらゆる生物にとって必須元素である。体重
70キロの成人の体には、約1.5ミリグラムのコバルトが存在する。食事
を通して1日に0.05から1.8ミリグラムのコバルトが体に取り込まれる。
(桜井弘編『元素111の新知識 引いて重宝、読んでおもしろい』より)

シロ子「コバルトといえば、『コバルトブルー』の空っていうくらい、
美しい青、っていう感じね。きれいなんでしょね。」
kaztec「コバルト?コバルトは、鉄とおんなじような白みががった銀色だよ。」
シロ子「でも、絵の具でもコバルトブルーってあるよ。」
kaztec「鮮やかな青色は、酸化コバルトか珪酸コバルトの色なんだ。陶器の
上塗りの染料釉薬として使われていたんだな。」
シロ子「コバルトって、他に使い道はないの?」
kaztec「コバルトは、ハイテク時代の申し子のような金属だよ。例えば
ハードディスクの磁気ヘッドとか、ものすごく硬い切削用工具にも使われて
いるんだ。永久磁石のKS鋼の主成分でもあるし・・・・」
シロ子「でも、なんだかコバルトって聞けば爆弾を思い出してしまう。コバルト
爆弾ってなかったっけ。」
kaztec「ラジオアイソトープのコバルト60のことかな。金属コバルトに、
原子炉で中性子をたっぷり吸わせると、コバルトの同位体を人工的に作る
ことができるんだ。これは、半減期が5年位でβ崩壊しニッケルになり、この時
ガンマ線を出すんだ。非常に強いガンマ線は、溶接部の欠陥の透過検査に使ったり
生物に変異をさせるために使ったりしているんだ。」
シロ子「オタク会話になっているよ。同位体とかβ崩壊とかガンマ線とか何を
言っているのかわからないよ。」
kaztec「同位体は、陽子と電子の数が同じで中性子の数だけ違う原子のことだよ。
普通のコバルトの場合は陽子が27個に中性子が32個あって、これで合計59個
あるんだ。それい中性子が1個加わって、合計60個になると、コバルト60だ。
これが、β崩壊、つまり中性子から電子が飛び出して陽子に代わる放射性崩壊が
起こると、陽子の数が1個増えて28個、中性子が32個のニッケルに変わるんだ。
この時、ビビビ、っと出てくるのがガンマ線なんだ。」
シロ子「ガンマ線って、X線のこと?」
kaztec「まあ電磁波だから同じものかもしれないけど、非常に波長の短い電磁波
なんだ。波長に関係なく原子崩壊の時に出てくる電磁波をガンマ線と呼んだり
するけどね。」
シロ子「最初にビタミンB12が出てきたけど、これにはコバルトが関係するの?」
kaztec「そうだよ。3価のコバルトイオンの周囲にコリンと呼ばれるものすごく
大きな化合物をくっつけているんだ。これが無ければ貧血になるらしい。」
シロ子「へえ、コバルトって役にたっているんだ。他にない?」
kaztec「コバルトは金属で使われると、超高温で使うガスタービン、ジェット機、
高温高圧の化学反応容器なんかに使われているんだ。ここらは、コバルトが
大活躍しているんだ。そうだ、第二次世界大戦の末期にB29が本土を空襲した
だろ。あのB29が完成したのは、このコバルト合金を使って排気タービン羽根
ができたからなんだよ。」
シロ子「コバルトって役に立ったり、危ないことに使われたり忙しい元素ね。」
kaztec「なんでもそうだよ。包丁でも料理もできれば、強盗にも使うことができる。
要は、使い方だよ。包丁に罪はないよね。コバルトも同じさ。」
シロ子「わかったような、わからないような屁理屈ね。」

【ニッケル】原子記号Ni、原子番号28、原子量58.69、融点1453℃、比重8.902

ニッケルの名前は、ドイツ語のクッフェルニッケル(銅の悪魔)に由来
している。銅を含んでいない鉱石とは知らずに銅を精錬しようと何度も
試みた冶金師たちが、それが得られないのは山の悪霊ニックのせいに違い
ないと考え、このような鉱石を『銅の悪魔』と呼ぶようになったといわれている。
(桜井弘編『元素111の新知識 引いて重宝、読んでおもしろい』より)


シロ子「ニッケルってどこに使われているの。」
kaztec「財布の中に入っているよ。」
シロ子「うそ。どれどれ。10円玉は銅だから、この銀色の100円玉か。」
kaztec「そうだよ。白銅と呼ばれる、ニッケル25%、銅75%が一番よく
使われているんだ。50円玉、百円玉、五百円玉だよ。」
シロ子「そうか。硬貨に使っているのか。10円玉は銅なの?」
kaztec「10円玉?10円玉は青銅だよ。銅が95%で亜鉛と錫が少量
入っているよ。」
シロ子「五円玉と一円玉は?」
kaztec「お金のことになると目の色が変わるね。五円玉は黄銅、1円玉は
アルミニウムだよ。黄銅は、銅が60%に亜鉛が40%だ。じゃあね、
各硬貨の重さは知っている。」
シロ子「また、朝の忙しい時期に、オタク講座を始めたね。知るわけないよ。」
kaztec「一円玉は1グラムぴったりだ。五円玉は3.8グラム、十円玉になると
4.5グラム、50円玉が少し軽くなって4.0グラムで、百円玉が4.82グラム
五百円玉が一番大きくて、なんと7.26グラムもあるんだ。」
シロ子「お金って軽いのね。」
kaztec「そんなことないよ。昔の慶長大判の話聞きたい?」
シロ子「いいよ、聞きたくない。それより、他にニッケルは使っているところ
あるの。」
kaztec「ニクロム線はニッケルが主体だし、ステンレスにも入っているし、
電池にもニッカド電池やニッケル亜鉛電池などもある。」
シロ子「要は色々使っているってことね。」
kaztec「まあ、そういう事かな。他には、MRIって医療用の検査装置に磁気
シールドにもニッケル合金を使うんだ。」
シロ子「ニッケルって、アレルギーがでるんじゃなかったっけ。」
kaztec「ニッケル皮膚炎とかアレルギーはあるようだよ。ニッケル合金で
つくったアクセサリーを身につけていると、皮膚に接触した部分で、汗とか
血液とかによってニッケルイオンが溶け出すことがあるんだ。そうすると、
体で抗原反応を起す場合もあるんだよ。」
シロ子「ふうん。でもお金でアレルギーを起すと大変ね。」
kaztec「シロ子さんなんかアレルギーどころか、ニッケルコレクターだよね。」
シロ子「なにそれ?」
kaztec「僕の財布の中の五百円玉を、『五百円は貯金』とか言って、抜き取って
貯金箱にいれるじゃないか。」
シロ子「抜き取っているわけじゃないよ。あれは正当な貯蓄行為よ。」
kaztec「まあ、どうでもいいけど。取られる身には変わらないからね。」

銅】原子記号Cu、原子番号29、原子量63.546、融点1083.4℃、比重8.96

このように、製作方法がまったく異なった二つの説が前後して登場したのでは
読者も混乱を招くのではないかと考え、この特集を企画したわけである。そして
問題点を整理するために、この二つの制作方法の最も相異しているつぎの3点を
摘出し、その可能性について、それぞれ専門家の意見をまとめてみることにした。
1.大仏の原型はどうやってつくられたか
2.鋳型はどうやってつくられたか
3.大仏の構造を支えるのにどのような方法がとられているか
(長崎誠三編著「人と金属と技術の昭和史−雑誌『金属の67年』−」より)


シロ子「これは、奈良の大仏さんのお話ね。」
kaztec「お、良くわかったね。」
シロ子「そりゃあ、大仏といえば奈良の大仏さんしかないよ。」
kaztec「そんなことないよ。例えば、鎌倉にもあるし、それに壊れてしまった
けど、豊臣秀頼が作った京都大仏なんか24メートルもあったんだ。奈良の
大仏さんは現在で約15メートル、当初で16メートルくらいだからもっと
大きかったんだ。鎌倉の大仏さんは11メートルだから、京都大仏がものすごく
巨大だったのがよくわかるね。」
シロ子「で、今日の銅の話はなんで大仏さんの論争になったの。」
kaztec「大仏は、青銅でできているのは知っているね。90%位の銅と錫と
鉛が少量入っている合金だ。大半が銅でできているんだ。この青銅製の大きな
銅像がどのように作られたのかで、一時期、大論争があったんだよ。」
シロ子「へえ、どうでもいいような論争だけど、いつ頃の話。」
kaztec「昭和40年から41年頃だよ。当時は、奈良の大仏さんは鎌倉の
大仏さんと同じように中子と呼ばれる内貼りと外型で下から型を作り、そこへ
青銅を流し込んで行ったと考えられていたんだ。」
シロ子「へえ、大仏さんって足からにょきにょき生えてきたんだ。」
kaztec「鎌倉の大仏がそのように作られたんだよ。全体を8分割して鋳込んだ
と記録にあるんだ。この説を採ったのが小林先生と荒木氏で、この荒木説に
論争を挑んだのが、物理冶金の桶谷繁雄先生なんだ。この先生の説は、まず
木材で大仏の原型を作成したとするんだ。この原型の表面を小さく区切って
分割して表型を粘土で作ってこれを外型とした。そしてね、今度は木を2センチ
だけ削り、もう一度同じことをするんだ。これを内型とする。この外型と
内型で鋳型をつくり、小さく分割した部分の鋳型を完成させる。この部品を
立体ジグシーパズルのように組み立てていくのが桶谷説なんだ。こうすると、
一気に青銅を流し込んだときにできる巣が少なくなるといっているよ。」
シロ子「あ、居眠りしていた。話は終わった?でも、随分手間なことしたね。」
kaztec「道理で静かだと思った。話はまだ終わらないよ。この桶谷説と荒木説
に対してまたもや論争が沸き起こるんだ。いずれにしても決着が付かないけど。」
シロ子「まだ、話を続ける?そろそろ、お弁当をつくらなくっちゃならない
時間なんだけど。」
kaztec「まあ、ここからの論争は、細かい技術論になっていくんでもうやめる
けど、このように大仏さんといえ、どのように作られたかはまだ謎のまま
といえるかもしれない。しかし、目の前に現存しているのは間違いない。」
シロ子「目の前と言っても奈良にね。ここじゃないよ。」
kaztec「そう、シロ子さんの実家の近くだね。」
シロ子「実家の近くは法隆寺。大仏さんは東大寺だよ。そろそろ間違えるの
止めにしない。訂正するのも疲れるよ。」

【亜鉛】原子記号Zn、原子番号30、原子量65.39、融点419.58℃、比重7.13

ここに、屡次独逸新興生産文学を紹介し来た本会は、ここにハンス・ノーバック著
『亜鉛』(原書名”Zinc wird Gold”)を江湖に公にし得ることを、頗る欣快とする
ものである。本書は19世紀のドイツ上部シュレージェンにおける、亜鉛工業発達
の一側面を形作るものであり、主人公ゴドゥルラの不屈の闘志が、いかに独逸亜鉛
工業隆盛の基礎をなしたのかの消息を示しつくしている。生産増強の叫ばれている
今日、ゴドゥルラおよびその後継者らの見せた烈々たる産業家の敢闘精神は、以って
他山の石とするに足りよう。本書は一篇の物語りの体裁をなしているが、登場人物
はことごとく実在の人々であり、従ってこの物語は一種の風雲録ともいうべき性質
を持ち、書き尽くせぬ興味の中に19世紀ドイツの社会制度をはじめ一般文物の
姿を知る好個の資料である。大方の味読を待つこと切なるものがある。
(独逸文化研究会「小説亜鉛」藤田五郎訳、昭和18年9月発刊)


シロ子「また、おとうさんの薄汚い本が出てきたね。」
kaztec「薄汚いのではなく、『由緒正しい古本』と言ってもらいたいんですけど。」
シロ子「でも、おとうさんが死んだら、ただのゴミになるよ。」
kaztec「これを手に入れるのに苦労したんだぞ。」
シロ子「で、この古本群は何。」
kaztec「これが、今日の『小説亜鉛』だろ。これが『小説金属』の重金属篇、こっち
が軽金属篇。この本が有名な『アニリン』で、これがレントゲンの伝記『レントゲン』
だし、『硝子の驚異』とグーテンベルグの伝記『黒い魔術師』。ダーウィンとマルクス
の親交を描いた『ダーウィンとマルクス』に、ディーゼルが書いた『技術論』がこれ。」
シロ子「よくもまあ、これだけ古本を揃えたね。」
kaztec「そうだな。独逸新興生産文学を全巻個人で持っている人は少ないかもね。」
シロ子「で、この古めかしい本はなんなの。」
kaztec「丁度、太平洋戦争の末期の昭和17年から19年に掛けて、天然社から発刊
された、独逸の翻訳本なんだ。独逸語だけは、翻訳が許されていたんだろうね。
それで、生産文学、つまり技術を描いた本が次々に刊行されていくんだ。でもね、
すぐに終戦になり、大半の本は東京で空襲に焼け、生き残った本は僅かしかない状態
だったんだ。」
シロ子「復刻されなかったの。」
kaztec「アニリンだけは、一度だけ復刻されたんだ。」
シロ子「じゃあ、幻の本になっちゃったの。」
kaztec「そうだね。図書館を調べても、あんまり蔵書としては見つけられないな。」
シロ子「おとうさんは、どうやって見つけたの。」
kaztec「企業秘密。」
シロ子「あ、その言い方は、昨日テレビで大蔵くんが言っていたせりふだ。隠すこと
ないじゃない。」
kaztec「しつこく探せばあるんだよ。」
シロ子「でも、ひとりで持っていても役に立たないね。」
kaztec「だから、復刻したいと考えているんだけど、ツテがなくてね。」
シロ子「今日は亜鉛の話を全然しないね。」
kaztec「亜鉛?しじみに入っているよ。」
シロ子「本当?」
kaztec「あ、変だな(あえんだな)」
シロ子「それはオチのつもりね。」



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