新玉川温泉

2006.8.29-31

わが温泉サイトの読者で、私と同じく”1人での執筆滞在できる宿”を探している方から、2,3年前にメールで「新玉川温泉」という宿にシングル個室(2食付で12000円)があるとの情報をいただいた。
温泉好きとしては、ガンに効くという噂で有名な”玉川温泉”には、以前からぜひ行きたいと思っていたが、難病を抱えた人の長期滞在の予約で一杯だといわれているので、自分がそうなるまで待つつもりでいた。
でも、この「新玉川温泉」(ホテル名)がその隣にでき、しかも新しい”ホテル”なので、伝統的湯治宿とは違って、パソコンを持ち込んでの執筆作業ができそうな期待。

東京または名古屋(ともに北緯35度台)に暮す者としては、北緯40度の秋田は遠い。そんなに遠いと普通の週末だと旅の疲れがでるので、大学が長期休業中がいい。でも、八幡平(はちまんたい)の中腹なので雪のある時期は無理(私が勝手にそう思ってるだけで、実際には交通あり)。とすると夏休みしかない。そこで東京での図書館通いに疲れて、少しは夏休み気分を味わいたくなると同時に、お盆も過ぎて、温泉地も空きが出てくる8月末、夏のしめくくりとして温泉に行くことにしているこの時を選んだ。

「新玉川温泉」(宿名)は、ネットで空き状況のチェックと予約ができるので楽。→新玉川温泉サイト(別窓)
新玉川温泉は玉川温泉を拡張したもので、玉川温泉を引き湯している。だから泉質は同じ。浴室が新しい分だけこっちがいいだろう。でもこっちにないのはあの天然の岩盤浴(人工的なものはあるが)。やはり本物の岩盤浴を体験したい。そのためには、敷くものやそれ用の服が必要(宿の浴衣は不可)。その分荷も増える。

加えて、地図を見ると、そこは焼山(1366m)という活火山の麓で、温泉場から山頂まで登山道がのびている。それをみるとどうしても登りたくなる。宿に所要時間を聞くと片道4時間だという(その2/3の時間で行ける)。ならばと登山できる準備もさらに加えて、荷をまとめる。
東京を朝10時に発って、新幹線・バスと乗り継いで、宿に着くのは14時半。せっかくの長旅だから、できるだけ長居したい。でも今回は”湯治”ではなく”温泉旅行”なので2泊。

客室

部屋は、ホテルのシングルルーム。ベッドがやや低いのはベッド上に足を上げることも難儀な人を配慮したのだろう。新しいだけにトイレが洗浄器付きなのはうれしい。ただクーラーはなく扇風機だけ。空(から)の冷蔵庫があるとわかっていたので、田沢湖駅で買ってきた缶ビール(230円)を入れる。館内だと320円(大400円)。テレビは山中だからなのか BSしか入らない。セーフティボックスがあるが、その鍵をもっていっても脱衣場のカゴに服と一緒に入れるしかないのは無意味なんだが…。
室内の椅子は固くて座り心地は悪いので、折畳みの座椅子を持ってくればよかった。

 

浴室

一服してさっそく1階にある風呂に入る。浴室は東北の温泉に典型の屋根の高い総ヒバ造りの一棟。新しいわりに雰囲気がある。まずフロントで注意されたのは、風呂に入る前と出る時にかけ湯せよとのこと。入浴前のかけ湯は当然のエチケットでもあるが、普通の温泉場なら出る時には、温泉成分を洗い流さないためにかけ湯はするな(+タオルで拭きとるな)と書かれているのに。
さらに、浴槽は、源泉100%のが1つだけで他は50−60%と明示してある。この点も「源泉かけ流し」を自慢する他の温泉と違う。なぜなら、ここは名にし負うph1.2の強酸性の湯(硫酸と塩酸が混じっている)。源泉がついたままだど肌に悪いのだ。なにしろ下流の田沢湖の魚を絶滅させた程の毒性。その毒液を有り難がって浸かりに来る人間ってヘン。
かけ湯をした後、まずは源泉50%の湯につかって体をならし、98℃を39℃にさました源泉100%に入る。自分でも忘れていた指先の傷口がヒリヒリする。まさに”薬湯”を全身で味わっているので、誰しも無言。皮膚の弱い子供には危険ということで、ここには走り回る子もいない(ファミリー向けの温泉ではない)。だから巨大な浴室に響きわたる音がない。
長時間入るのはよくないので、暖まるのを目指さずに湯から出る(汗が出るほどの長湯はダメだという)。打たせ湯もあるが、直接肌に当てるといためるのでタオルを当てるようにとのこと。
そしてかけ湯を丁寧にして出る。
脱衣場の水道の蛇口はすべて腐食していた。これは空気によるものか。

岩盤浴

次は、岩盤浴。今や岩盤浴は東京の近所の染井温泉でも導入しているが、ここ玉川温泉の岩盤浴がそのルーツ。なので、宿の浴室にある人工岩盤浴ではなく、本物を体験しにいく。
旧温泉宿を越えて、黄色い湯の花を採取している川に沿って進む。日本ではここにしかない特別天然記念物の”北投石”を見るあたりから、岩盤浴?で寝ころんでいる人たちを見るようになる。
さらに進むと、98℃の熱泉が毎分9000リットルの勢いで噴出している玉川温泉のここが源泉”大噴(おおぶけ)”(写真)。それを見下ろす場所では人が歩道に坐ったり、寝たりしている。このへんは別に地面(歩道)は熱くないし、空気は毒性があるし、ちょっと違うんじゃないか? それとも特別な”気”のパワーでもあるというのか。
さらに上流に行くと、硫黄の堆積でできた黄色い噴気塔が、不気味な咆哮とともに口から地底のガスを吹き出し続けている(写真)。まさに地獄の一丁目のような雰囲気(立山室堂の「地獄谷」も同じ景観)。
このあたりこそ地面が地熱で暖かい。そこらじゅうにある噴気孔の近くの岩盤にゴザを敷いて寝ころぶのだが、道端で寝ころんで、じっと動かない人を見ると、まるで有毒ガスで倒れた人のよう(遠くから見ると大惨事のような風景)。
隙間を見つけて、手で地面が暖かいのを確認して、バスタオルを敷いて寝ころぶ。タオルの下から暖かさが伝わってくる(携帯温度計を置くと地上1cmで50℃)。その部分は気持ちいいんだが、あたりの噴気孔からでるガスの風下になると、とたんに臭くて息をするのもこわくなる。仰向けで背中を暖めた後は、うつ伏せになって腹を暖めるのだ(低温やけどを防ぐ意味も)。うつ伏せになっていると、終わって帰るおじさんが「こっちの方が暖かいよ」と自分のいた所を指していった。
もっと暖まっていたいような、これ以上硫黄臭いガスを吸いたくないような、分裂する気持ちになる頃が潮時。それ以上いるとやはりまずいらしい。
宿に帰って、源泉を10倍に薄めて飲泉(源泉のままでは毒。しかもコップ1杯を一日3度に分けて飲む)。

夕食

夕食は、バイキング。玉川温泉の方は自炊中心なので宿の飯はまずいと聞いたのも、こっちの宿にした理由。といっても、何しろ山奥の湯治場のバイキングなので、エメラルドグリーンクラブのそれとは品数などが少ない。要するに、量の調整ができるという意味で、決して食べる種類をあれこれ選べるわけではない。一応、稲庭うどんやきりたんぽなど地元のものが出る。でも私は中華の五目おこげを2皿食べて、(バイキングだとどうしても食い意地が張って)満腹に(でも炭水化物と糖分は控えた)。

効能

売店には玉川温泉についての本が並んでいる。どれを買って読もうかと迷っていると、客の中年婦人が「これがやさしく書いてあるわよ」と薦めれくれた本は、この温泉で不治の病が奇跡的に助かった人の話(他の本もそういうのが多い)。
でも私が買ったのは、杉江忠之助という温泉医学者が客観的データをもとにここの効能を冷静に分析した『玉川温泉 湯治の手引き』(社団法人玉川温泉研究会発行。1100円)。タイトルからして実質的でちっともセンセーショナルじゃない。
冷静なこの本によると、統計的に温浴での効果が確認できたのは皮膚病(ただし急性は除く)・血圧・運動障害であって、他の本と違ってガンへの効能については一言も言及がなかった。何しろ著者は「ある病気が治ったという単なる話を聞いただけで、自分の病気も温泉に行けば治るだろうといった安易な考え方」を批判するのが目的だったようだし、この本によせがきをしている広義の玉川温泉全体を経営しているホテルの経営者は、「巷の噂だけに頼って湯治に来られる、といった弊害」を危惧していることからも、玉川温泉の効能について最も信頼できる本だ。
この本によれば、実は悪性腫瘍(ガン)は昭和27年の「禁忌症」側のリストに載っている。そしてそのリストを禁忌症として再掲しているということは、公式には、玉川温泉ではガン患者は入浴してはいけないわけ。
結局玉川温泉は、強力な殺菌作用の他に、細胞の働きを活性化させ、全身に非特異的刺激作用をもたらす、すなわちその人が本来持っている自己治癒力を回復・発揮させる効果がある(にすぎない)わけで、決して最新医学を超越する奇跡の神水ではない。さらにこれらは3週間以上の連続浴のデータであり、2,3日の温泉旅行者に期待できるものではない。

客層

実際には、別のメッセージ(奇跡の温泉!)の本の方が種類も(もちろん発行部数も)多いこともあって、ワラをもすがる思いで来ている人もいるはず。たとえば、頭をバンダナなどで覆った(放射線治療を受けたと思われる)女性を何人も見た。それに停車中のナンバーを見ると、東北近県はもちろん、関東・北陸・東海地方も珍しくない。歩行中見た範囲で最も遠方の車は滋賀だった。もっとも関西からは新幹線や飛行機で来るようで、あちこちで関西弁は耳にする(中国以西は未確認)。こんな山奥の温泉で全国から人を集める所ってほかにないだろう。
ロビーにいたら、20泊以上のおじさんがいた。ここはホテルだから1泊1万はするはず。また、歩行困難者のリハビリとして家族がつきそっている(これは効果が期待できるケース)。玉川温泉は数少ない湯治のための温泉。その一方で、最近の人気のためか、ホテルの新玉川温泉には観光バスでのツアー客の団体も来る(私もその同類)。
このように「新玉川温泉」は、リハビリ患者と進行したガン患者と物見遊山の観光客が同宿する所になっている。

 

7時30分から9時までの朝食もビュッフェ形式。茄子の煮つけを2皿、塩気の多くない明太子でお粥をいただく。牛乳とフルーツジュースはあるが、コーヒーはなし(ラウンジで400円)。
2日目の空はあいにくの雨。焼山登山を予定していたのに。山の中の湯治温泉って雨だとすることがない。もちろん湯治客にはレジャー施設は不要だろうが、入浴する回数も日に3度が限度という強い温泉なので、彼らはこういう日は何をするんだろう(館内にある人工岩盤浴は時間つぶしになる)。
バスに乗って”後生掛温泉”(ここも泊ってみたい宿)に行く手もあるが、泉質のインパクトでは今いる玉川温泉が勝っているわけだから、今回は玉川温泉に入り三昧して、焼山や八幡平などの観光は次回にしよう。


玉川温泉浴室

夕方、せっかくなので玉川温泉(以下、玉と新玉)の方の風呂に入りに行った(新玉でチケット400円)。昔は混浴だったのを2つに分けたので心なしかやや狭く感じたが、浴槽の種類は新玉とほぼ同じ(もちろん新玉の方がまねた)。新玉になかったのは寝湯。逆に新玉には露天風呂がきちんとある(玉の方はなぜか浴室内に露天と称する小さな浴槽があるが、このどこが露天なのかは不明)。でも源泉に数百m近いのは玉の方だから、泉質に微妙な差があるかもしれない。
ところで、玉で靴を脱いだら、靴(ホーキンスの運動靴)の両足とも底のゴムがベロリとはがれて、中底まで下から見えている。これも玉川温泉の強酸性のせい? こんな状態じゃ、早々に底のゴムが全部取れて歩けなくなる。登山しなくてよかった。急きょ、売店で健康サンダルを買った。

評価

さて、パソコンでの執筆環境だが、シングル室内のコンセントはベッドから遠いため、延長コードが必要。気分転換に地下の図書館のソファとかロビー外のラウンジとかでやってもいい。
ビジネスホテルでないのでもちろんLANには未対応。でも長期滞在宿なのでパソコン使用者の年齢が上がれば、いずれ対応するだろうと楽観。
ただ部屋での読書はソファがわりの座椅子が必要(図書室にはソファがある)。散策路もあるので気分転換もできるが、本質的にここは真剣に湯治するための宿で、執筆滞在のために遠くまで来る必要もない。

持ち物・買い物

私だったら持っていく荷物:ヒゲそり、バスタオル2枚(岩盤浴用ゴザの代用)、岩盤浴用上下衣類(ユニクロの夏用6分丈ジャージ)、パソコン用延長コード、室内用ドリップコーヒー。途中でビールとつまみ。あと、パソコン執筆用に背もたれ座椅子も持ってくるべきだった。ゴザは100円ショップのを持っていく手もある。

宿で用意:タオル、浴衣、歯ブラシ。ランドリー設備。傘(岩盤浴用の日傘にも)。つまみは売店でも調達。売店では岩盤浴用の折畳み式のゴザが600円。

新玉よりも玉の売店の方が品揃えが多い。また缶ビールは玉の浴室入口が小250円と安い。ところが、健康サンダルはなぜか新玉が300円(玉750円)スニーカーも1000円だった。

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